第86話

 昼食も食べ終わって俺たちはダラダラと三時間ぐらい過ごしていた。


「そうだ、葵さん」

「何? 琴美ちゃん」

「年越しそば私が作ってもいいですか?」

「え、琴美ちゃんが作ってくれるの!」

「はい。迷惑じゃなければですけど」

「迷惑なわけなわけないじゃい。むしろ大歓迎よ! 今年は市販のやつにしようと思ってたから」

「ありがとうございます」


 ということで、今年は琴美の手作り年越しそばを食べながら年を越すことが決定した。


「な、言ったろ」

「だね」

「材料買っといてよかったな」


 どうせ葵は了承すると思って俺たちは昼食の材料を買うついでに年越しそばの材料も一緒に買っておいたのだ。


「用意がいいのね」

「お母さんならそう言うと分かってたからな」

「さすが、私の息子ね」

「それ関係ある?」

「あるわよ。同じ血が流れてるんだから。私のことは分かって当然よ」

「何その理論」


 葵の言ってることがちょっとよく分からなかった。


「さて、琴美ちゃんが年越しそばを完成させるまでに、私は小説を書きあげてしまうかしらね」

「頑張ってください。新作楽しみにしてます!」

「琴美ちゃんのためにも頑張っちゃうわよ! そうだ、完成したら読む?」

「読みたい。と言いたいところですけど、発売するまで待ちます」

「そっか。面白いから、期待しててね」

「はい!」


 俺は読ませてもらえばいいのに、と思った。せっかく、一番に読むことができるに、断ってしまうなんてもったいない気がした。


「本当に、読まなくていいのか?」

「うん。だって、本になってから読みたいもん」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんなの。それに楽しみは取っておくタイプだから」

「まあ、琴美がそう言うならいいんだけどな」

「発売されたら一緒に読もうね!」

「そうだな。それまでに、お母さんのが出してるほかの本を読んどかないとな」

「今から、読んできたら?」

「そば作りは手伝わなくていいのか?」

「うん。私一人でできるから大丈夫。それよりも、本の話をしたいから読んできて!」


 琴美があまりにも真剣にそうんなことを言うので、俺は葵の書斎に向かって、前回読んだ本の続きを取り出して、自分の部屋で読むことにした。


「さて、読みますか」

 

 俺は一人の部屋でそう呟くと本の世界へと入っていくのであった。




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