第85話

 家に帰ると葵は起きていて、またパソコンとにらめっこをしていた。


「お母さん、起きてて大丈夫なのか?」

「あら、二人ともおかえり」

「葵さん大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。琴美ちゃん。心配してくれてありがと。それよりも私はお腹が減ったわ」


 お腹をさすってそういう葵。

 まったく、自由人だな。


「今、昼食作りますね」

「やった。琴美ちゃんの料理!」


 琴美はキッチンに向かって葵のために少し早めの昼食を作り始めた。

 俺は葵の隣に座ってパソコンを見た。


「あと、どのくらいなんだ?」

「う~ん。もう終盤だから、あと少しね。

「締め切りはもう少し先なんだろ?」

「そうなんだけどね、せっかく息子と琴美ちゃんがいるんだから、仕事のことを考えずに一緒にゆっくりしたいじゃない」


 つまり、葵が頑張ってるのは、俺たちのためってわけか。そう言われると、これ以上何も言えないな。

 

「そうか。でもあんまり無理ないように。楽しみに待てくれてる読者が近くに三人もいるんだから、体調崩して書けないなんてことになったら大変だからな」

「そうね。ありがと蒼月」


 俺は一旦葵のそばから離れて琴美のもとへと向かった。


「優しいね。蒼月君は」

「そうか?」

「うん。そういうところが私は好き」

「ほら、そんなことはいいから早く手を動かせ」

「あ~。照れてるっ! かっわいい!」

「からかってるな? からかってるよな?」

 

 俺はニヤッと笑って琴美のことを見た。


「ちょ、蒼月君? 何かよくないこと考えてるでしょ……」

「どうかな~」


 俺は琴美を壁際まで追い込むと脇腹に手を伸ばしてこちょこちょをしてやった。


「もう、早く、葵、さんのご飯、作らないといけないのに~」

「もうからかわないか?」

「からかわないから、もうやめて!」

「よし約束だからな」

「え、何のこと?」

「琴美~」


 琴美は俺の腕の間をするっと抜けて、葵のもとまで行った。


「葵さん、助けてください。蒼月君が……」

「お母さん、そこをどいて」

「どかないよ~。私は琴美ちゃんの見方だから。ね~」

「はい。私も葵さんの見方です!」


 葵は琴美を守るような形をとって、動こうとしなった。

 そんな二人のことを見ていたら、もういっかと思って俺はソファーに座った。


「もうしないから、琴美、早くお母さんにご飯を作ってやってくれ」

「は~い。蒼月君がこちょこちょしてこなかったら、もう完成してたんだからね」

「それは、琴美がからかうからだろ」

「私は本当のことを言っただけだもん~」

「ほんとに二人は仲がいいのね。こりゃあ、孫が見れる日も近いわね」

「それはまだ先だから! 俺たちまだ十六だし!」

「先ってことは、見せてくれるんだ」


 葵がニヤニヤと笑って俺のことを見ている。

 そりゃあ、琴美との間に子供ができたらうれしいとは思うけどな……。そう思って、琴美の方を見ると、顔を真っ赤にしてキッチンへと逃げるように走っていった。


「琴美ちゃんのことしっかりと捕まえとくのよ」

「分かってるよ。それに捕まえられるのは俺の方だと思うけどな」


 すでに胃袋はつかまれて、もう逃げ出せないわけだし。

 この一年間ですっかりと琴美の料理の虜になったものだと、俺はしみじみと思った。

 そうこうしていると、キッチンの方から美味しそうな匂いが漂った。

 出来上がった琴美の料理を四人で食べて、その美味しさを再確認する俺であった。 

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ここまで読んでいただきありがとうございます! 


 冬休み編も終盤!



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