第83話(年越しそば)
翌朝、つまり大晦日。
目を覚ますと、琴美がまだ隣でスヤスヤと眠っていた。そういえば、昨日一緒に寝たんだったな。
体を起こして毛布から出ると冷気に包まれた。
「さむっ」
それもそのはず、カーテンを開けて窓の外を見てみると、あたり一面は雪で覆われていた。
「寒いはずだ。それにしても、今年はよく降るな」
今もなお降り続いてる雪は寒さをより一層強くした。なんでも、今年は五十年に一度の大雪の年になるだろうと言われていた。
俺は琴美にしっかりと毛布をかけてやってエアコンをつけた。
「今日で今年も終わりか・・・・・・」
琴美と出会って八ヶ月が経過したということになる。この八ヶ月いろんなことがあったな。その殆どが楽しい思い出だ。
ここはあえてこう言おう。
「琴美のせいで人生変わったな」
目立ちたくないと思ってたあの頃の俺はもうすっかりといなくなっていた。だからといって目立ちたいわけじゃないけど・・・・・・。
誰にでも自分の人生を変えてくれる人に出会う時がくるというのを聞いたことがある。
俺の場合それは間違いなく琴美だろうな。
「ありがと、琴美」
「どういたしまして」
「え、起きてたのか?」
「今、起きたんだよ」
そう言って、琴美は俺の隣に立って窓を眺めた。
真っ白な雪が部屋の中に入ってくる。
「綺麗だね」
「だな」
「今日はどうやって過ごすの?」
「うーん。特に変わったことはしないかな。みんなで紅白見て、それからダラダラと過ごして十二時に年越しそば食べるくらいかな」
「そばは手作り?」
「どうかな、うちの親は気まぐれだから。といってもお母さんだけだけどな。知ってるだろ? ちなみに去年は市販のやつだったな」
「そうなんだ。じゃあさ、私が作ってもいい?」
「そばも作れるのか」
「もちろん。作れるよ! 毎年作ってるからね」
「さすがだな。お母さんたちに聞いてみるか。どうせ、ぜひ作ってほしいとか言うだろうけど」
葵ならきっとそう言うだろうな。
窓を閉めると俺たちはリビングに向かった。
「お母さん。おはよう」
「葵さん。おはようございます」
リビングに降りると、葵はソファーに座ってパソコンと睨めっこしていた。
「二人ともおはよう」
そう俺たちに言った葵は目の下にくまを作っていた。これは、徹夜したな。
葵は小説締め切り間近になるとこうやってよく徹夜をしている。そばには、コーヒーの入ったマグカップが置いてあった。一体、何杯飲んだのだろうか。
「体調大丈夫か?」
「大丈夫よ。いつものことだから」
「あんまり、無理するなよ」
「もしかして、徹夜ですか?」
琴美は心配そうな顔で葵のことを見ていた。
「大丈夫よ。琴美ちゃん。私は元気だから」
「私、朝食作りますね」
「あら、ほんと? じゃあお願いしてもいい?」
琴美は早速キッチンに向かって朝食を作り始めた。
「蒼月。あんた、いいお嫁さんをもらったね」
「そうだな。そんなこと言うまで、疲れてるのか。ちゃんと寝ろ。俺も琴美もお父さんも心配するんだから」
「分かったわよ。琴美ちゃんの朝食できるまで寝てるから、できたら起こしてね」
「了解」
全く、小説のことになると自分のことは二の次になるんだから。
子としては心配で仕方がない。だけど、ああやって命を削って書き上げた葵の小説が面白いのもまた事実だった。
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