第76話

 俺と琴美は玄関先でイチャついてる二人の横を通り抜けてリビングに向かった。

 せっかく、むすこが帰ってきたというのに、そっちのけでイチャつきやがって。だから、俺は高校生で一人暮らしをすることを決めたんだ。


「いつもあんな感じなの?」

「まあ、だいたい、いつもあんな感じだな」

「そうなんだ」


 さすがの琴美も引いてるよな。ん? なんだその目は?

 もしかして、あの二人のことをうらやましいとか思ってるんじゃないだろうな?


「いいな~」

「まじか……。琴美もああいうのやりたいのか?」

「う~ん。憧れはあるかな。いつまでも仲がいい夫婦ってなんか素敵じゃない?」

「子供からしたらうっとうしいだけだけどな」

「うっとうしくて悪かったわね!」


 葵と雄二がリビングに入ってきた。

 目の前でイチャつかれるんだ。うっとうしい以外のなにものでもないだろ。


「お母さん悲しい……」

「演技はいいから」

「蒼月はノリが悪いわね~。ね~。琴美ちゃん!」


 琴美は苦笑いを浮かべて、そうですねと頷いた。

 ほら、琴美も困ってるだろ? 


「ほらほら、葵さん。ふざけるのはそこまでにしといて、主役がそろったんだから、そろそろ始めないかい?」

「そうね。やりましょうか」

「そうですね」


 一体何が始まろうとしているのか。これから始まることをなぜか琴美は知っているらしい。俺だが取り残されてしまっていた。


「蒼月君は座ってていいよ」

「わかった」


 そういうと、琴美と葵はキッチンに向かった。

 リビングに残った俺と雄二は向かい合うように椅子に座った。


「こうして向かい合うのも久しぶりだね」

「そうだな」

「なんだか、見ない間に成長したな」

「そうかな?」

「雰囲気が大人っぽくなったよ」

「自分ではわからない部分だな」

「一人暮らしがいい方に向いてるんだろうね」

「まあ、一人じゃないけどな」


 雄二も当然、今、俺が琴美と一緒に暮らしていることを知っている。

 雰囲気が大人っぽくなったか。そんな風に見えてるのなら嬉しい気はする。琴美と一緒に暮らしていると自然としっかりしないとっていう気にさせられるんだよな。琴美は俺が手伝わないと家事のほとんどを一人でやろうとする。なんでもできてしまう完璧人間なのだ。琴美は。そんな琴美の横に立っても恥ずかしくないような男になる。俺はそう心に決めている。だからかもな、少し背伸びをしているから大人っぽくなったように見えるのかもな。

 

「ところで蒼月。琴美ちゃんとは順調なのかい?」

「今のところは順調かな」


 これといって、ケンカもしてないし。なんだかんだ、毎日楽しく同棲生活を過ごしている。


「そうか。大切にしてあげるんだよ」

「わかってるよ」


 雄二は俺のその言葉を聞くと優しく微笑んだ。

 二人で数か月分の話をしていると、キッチンの方からいい匂いが漂ってきた。

 

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