第69話(デミグラスハンバーグ)

 体育祭が終わり、俺たちは家に帰ってきていた。

 今日という一日を俺は絶対に忘れることはないだろう。そのくらい、今年の体育祭は楽しかった。そして、めっちゃ疲れた。普段、あまり運動をしない分、その反動はかなり大きいようだった。

 俺はソファーに倒れこんだ。


「お疲れみたいだね」

「楽しかったけど、その分めっちゃ疲れた」

「普段から運動しないからだぞ」

「そうだな。運動は大事だって実感してるとこだよ」

「明日から一緒にジョギングする?」

「とりあえず、筋肉痛になりそうだから、それが治ってからだな」

「あはは、そうだね」


 琴美はキッチンで夕飯を作っていた。元気だな。琴美は結構な数の競技に出てたはずなんだけどな。琴美は出る競技ほとんどで一位を取っていた。きっと、琴美が取った点がクラスにおおいに貢献してるんだろうな。


「琴美はどこもケガしてないか?」

「ケガ人に言われたくないな~」

「ぐっ……」

「私は大丈夫だよ~」

「よかった」


 キッチンの方から美味しそうな匂いが漂ってきた。


「今日は何を作ってるんだ?」

「蒼月君の好きなものだよ~」

「てことはあれだな」


 匂い的にも絶対にそうだ。

 ジュ―っという心地の良い音が聞こえてきた。

 早く食べたい。俺のお腹が鳴って、そう言っている。何か手伝いたいんだけど、動けそうになかった。


「悪い。手伝いたいけど、動けそうにない」

「大丈夫だよー。蒼月君は座ってて、もうすぐ終わるから」

「いつもありがとう」

「どういたしまして」


 琴美が出来立てのハンバーグをお皿に乗せてテーブルに持ってきた。久しぶりに琴美のハンバーグを食べるな。


「はい。じゃあ、このデミグラスソースをかけてね」

「今日は、デミグラスハンバーグか!」

「うん。食べれる?」

「もちろん。大好きだ!」

「じゃあ、食べよっか」


 俺はデミグラスハンバーグに箸を入れた。相変わらず凄い肉汁があふれ出すあつあつのデミグラスハンバーグをほくほくしながら食べる。


「美味しい!」

「よかった」


 琴美も一口ハンバーグを口に運んで満足そうな顔をしていた。


「それにしても、本当に楽しかったな~。体育祭」

「だから言ったでしょ、楽しいって!」

「そうだな。琴美の言う通りだったな」

「来年も同じクラスだといいね」

「そうだな。今年も、もうすぐ終わるのか」

「ね。なんか、あっという間だったね」


 琴美と出会ってから、五か月が経つのか。まさか、中三のあの時おでんをあげた女の子とこうして、一緒の家でご飯を食べてるなんて、想像もしていなかっただろうな。


「こんなこと改めて言うのは恥ずかしいんだけど、あの時、私に声かけてくれてありがとう。あの日、蒼月君に出会てなかったら、今こうして一緒にご飯を食べることもなかったんだよね」

「そうだな。なんか、凄いよな」

「だね。私は嬉しいよ。蒼月君に会えて」

「俺もだよ……」


 俺たちはお互いに肩を寄せ合ってハンバーグを食べた。 

 この時間が、琴美と一緒にご飯を食べるこの時間が、何よりも幸せだった。この時間がずっと続けばいいのに。そう思うほどに……。

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