第68話

 目を覚ましたら、そこは保健室だった。

 俺は、自分の記憶を辿った。たしか、前にいる三組の騎馬の鉢巻きを取った瞬間、後ろにいた三組の騎馬に俺の鉢巻きを引っ張られて、そのまま転倒したんだったな。

 結果はどうなったのだろうか。三組は優勝できたのだろうか。俺はゆっくりと体を起こした。


「いてててて……」


 地面に打ち付けられた箇所が痛かった。幸い、折れたりはしてないみたいだった。

 窓の外を見てみると、すっかりとオレンジ色に染まっていた。


「もう、終わってるよな……」


 せっかく午前は楽しかったのに、あんなことになって最悪な気分だった。下の騎馬になってた三人は大丈夫だったのだろうか。

 保健室内を見渡してみたけど、俺以外には誰もいなかった。


「蒼月君!」


 保健室に琴美が飛び込むように入ってきた。そして、俺の胸に一直線。


「ちょっと、琴美、痛い……」

「あ、ごめん」

「いや、大丈夫」

「よかった、無事そうで」


 琴美の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 心配かけたみたいだな。俺は琴美の頭をなでた。


「それで……。どうなった?」

「どうなったでしょう?」


 琴美はニヤニヤといたずらな笑みを浮かべている。

 そして、Vサインを顔の横で作って言った。


「もちろん、優勝したよー! 蒼月君のおかげだね!」

「そっか。よかった……」

 

 ほんとによかった。そう思ったら、俺は涙があふれてきた。

 もしも、あれで負けてたらみんなに合わす顔がないところだった。

 そっか。優勝したのか。俺は、その幸せを噛みしめてまた泣いた。

 

「ほんとによかった……」

「てか、蒼月君~。球技大会の時と逆になったね」

「そ、そうだな」


 あれだけ、琴美にケガするなって言っておいて、自分がケガするとは。


「まあ、あれは蒼月君のせいじゃないんだけどね~」

「そうだけど、落ちた俺もわる……」

「それ以上は言うの禁止ね」


 そう言って、琴美は俺の口をふさぐように抱きついてきた。


「蒼月君は悪くないから」

「そうだな。ありがと……」


 俺は琴美の背中に手を回して抱きしめた。

 

「そういえば、英彦たちがどうなったか知ってる?」

「三人とも大丈夫だよ。ちょっとかすり傷ができたくらいだったよ」

「そっか……」

「そろそろ、教室に戻ろっか?」

「そうだな。カバンも取りにいかないとだしな」

 

 俺はゆっくりと立ち上がって、琴美の肩を借りるような形で教室を目指す。

 さすがに生徒はもうほとんど残っていないみたいで、校舎の中は静かだった。

 教室に到着して、俺は扉を開けた。すると……。


「お、ヒーローが戻ってきたぞー」

「ほんとだ! 佐伯君、おかえりー」

「ケガは大丈夫かー?」

「お前のおかげで勝てたよ。ありがとな」


 教室内にはクラスメイト達がいて、俺に向かって心配や感謝の言葉をかけてくれた。


「どうして……」

「どうしてってそりゃあ、蒼月だけおいて帰るわけないだろ! みんなでつかんだ優勝なのによ。お前がいなくてどうするんだよ」


 英彦が琴美とは反対側に来て、肩を貸してくれた。


「よかったね。蒼月君!」

「うん。ありがとう、みんな」


 今日は泣いてばかりだな。俺は今日一番の嬉し涙を流してクラスメイトの輪のんかに入っていった。


 

 



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