第67話

 校庭に戻って自分たちのテントに入るとすぐに午後の競技が開始された。

 午後一番最初の競技は三年生のクラス全員による三十三人三十四脚だった。

 俺たちも三年生になったら、あれをするんだよな。俺はそんなことを思いながら、三年生たちの勇姿を見ていた。


「二年後には私たちがあれをするんだね。二年後も同じクラスだったらいいね」

「そうだな」

「でも、その前に蒼月君は騎馬戦頑張ってね」

「頑張ってくるよ」


 三年生の競技が終わって、いよいよ騎馬戦の時間がやってきた。各クラス、男子が四人で一つのチームを作る。それが各クラス三組。全部で十五組ある。俺たちのクラスの騎馬を抜いたら十二組。鉢巻きを一つ取ることに五点がクラスのポイントに加算される。

 三組との得点差は今のところ十点。三組が鉢巻きを三本取って、俺たちのクラスが一本も取れなかったら逆転負けしてしまう。

 しかも、この騎馬戦が一年生、最後の競技だ。ここで勝負が決まる。

 俺たちは校庭に案内されてそれぞれの位置についた。


「よし、蒼月。行くか!」

「行くか」


 俺たちは四人で円陣を組んで騎馬を作った。

 パンッ。

 ピストルの音が空を切る。

 と、同時に一斉に騎馬たちが走り出した。俺たちの騎馬は最初は様子見をすることにしていた。少し離れたところで、他のクラスの様子を見守っていた。

 いたるところで乱戦が起こっている。二組の騎馬はまだ鉢巻きを取られていなかった。


「まずは、鉢巻きを取られないようにすることだな」


 俺がそう言うと、英彦が反論した。


「いや、そろそろ動くぞ。結局、一つも鉢巻きを取れなかったら意味がないからな」


 他の二人が頷いて、三人が走り出した。英彦たちの狙いは、三組だった。一番のライバルを真っ先に潰そういう考えらしい。

 俺はただ、上に乗って相手の隙を狙って鉢巻きを取るだけ。その隙は英彦たちが作ってくれる。俺は三組の騎馬の鉢巻きを一つ取った。


「よし、一つ目ゲットだな」

「ああ」

「おーし。次に行くぞ~!」

「「おー」」


 三人がさらにスピードを上げて、校庭中を右往左往する。

 俺は、それに合わせて取れそうな鉢巻きを次々に取っていった。その結果、俺の手には今、鉢巻きが三本あった。確実に勝つためには後、二本くらいほしいところだな。


「そろそろ、ラストスパートだな」


 残りの騎馬数は俺たちを入れて五組。二組の騎馬は俺たちしか残っていなかった。三組の騎馬は二つ残っている。


「三組を狙うしかないな」

「無理はするなよ」

「無理しなきゃ、勝てないだろ」


 英彦が俺を見上げてニコッと笑った。

 そして、その言葉の通り英彦たちは最後の力を振り絞って、三組の騎馬に向かって走り始めた。三組の騎馬は、動かずに俺たちが来るのを待ち構えていた。


「真っ向勝負をしようってか! 面白い! 蒼月、気合い入れろよ!」

「分かってる」


 三組の騎馬が俺たちを挟むように位置にいる。俺は自分の騎馬を守るように三組の騎馬の手を必死にかわし続けた。


「今だ! 蒼月、取れ!」

「おう」


 俺は前方にいた三組の騎馬の鉢巻きに手を伸ばして、それをつかみ取った。

 その瞬間、後ろにいた、三組の騎馬に鉢巻きを引っ張られた。そして、俺は……。

 騎馬から落ちて地面にたたきつけられた。


「蒼月! 大丈夫か……!」


 すぐに、英彦が俺の傍に駆け寄ってきた。さらに、俺たちのクラスのテントから琴美も駆けつけてきていたのが見えた。

 

「蒼月君! 蒼月君……」


 琴美が俺の傍までやってきた。その顔には乙部の涙がボロボロと流れていた。


「……」

 

 俺は言葉を発することができないまま。意識を失った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る