第59話

「だから無理するなって言ったのに」

「いたっ……」


 俺は琴美の足首に氷をあてた。


「だって、勝ちたかったんだもん……」

「その気持ちは分かるけど、無理してケガしたら意味ないだろ。今日が金曜日でよかったな」

 

 勝ちたいって気持ちは今は痛いほど分かる。俺もソフトボール勝ちたかったからな。

 琴美はバレーの決勝でジャンプの着地の瞬間に足をひねって捻挫をした。応援をしていた俺はすぐに駆けつけて、琴美をお姫様抱っこして保健室に連れて行った。そして、今に至る。


「結果的に勝ったからよかったものの、あれで負けてたら琴美も他の生徒も後悔が残るだろ」

「そうだね……」

「まあ、でも、どっちも優勝できてよかったな」

「うん」

 

 俺は琴美の頭を優しくなでた。

 琴美が嬉しそうにはにかむ。ほんとに、凄いな。有言実行してしまうなんて、ちょっとしたハプニングはあったけど、結果よければすべてよしってとこかな。


「さて、後でまた迎えに来るから。休んでで」

「うん。ありがと」


 俺は琴美を保健室に残して教室に戻った。

 教室に戻ると、クラスメイトが俺のもとに駆け寄ってきて、琴美の様子を聞いてきた。とりあえず、大丈夫だと伝えたら、みんな安心した顔で自分の席に戻っていった。


「七瀬さん、なんともなさそうか?」

「たぶんな。ちょっと捻っただけだろうから、とりあえず様子見だな」

「そっか。アリスも心配してたから、大丈夫だって伝えとくよ」

「ああ、悪いな」

「てことは、お疲れ会も不参加だな」

「そうなるな。ごめん」

「いいよ。蒼月は七瀬さんについていてやれよ」

「ああ。また今度、四人でどこかに行こう」

「そうだな」


 その後はバスケとバレーで優勝したということで表彰状が俺に渡された。なんで、俺? と思ったが、琴美に渡してほしいということらしい。なので、俺は二枚の表彰状を受け取って、保健室に向かった。


「琴美、起きてるか?」


 俺が保健室に入ると、保険の先生がしーっというしぐさをして、出迎えた。どうやら、琴美はベッドで眠っているらしい。


「あの、七瀬さんは大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。足も見たけど軽い捻挫だろうから、一週間もしてればよくなってると思うわ」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺は保険の先生に頭を下げて琴美が眠っているベッドの傍に座った。

 琴美はすやすやとベッドの上で眠っている。ほんとに気持ちよさそうな顔で眠っているので、起こしてしまうのはもったいないなと思ってしまった。だけど、最終下校時間も迫っていた。


「琴美。帰るぞ」


 俺は琴美の肩をトントンとして起こした。琴美は目をこすりながらゆっくりと体を起こした。


「蒼月君? あれ? 私寝てた?」

「うん。可愛い顔して寝てたぞ」

「うそっ……恥ずかしい」

「今更だろ」


 一緒に住んでるし、もう何度も琴美の寝顔は見ている。


「そんなことより、帰るぞ」

「え、もうそんな時間?」

「ああ。ほら、乗って」

 

 俺はベッドの前にしゃがんで琴美に背中を見てた。

 琴美はゆっくりと俺の首に手を回した。


「カバンを持ってもらってもいいか?」

「うん」

 

 俺は琴美に二人分のカバンを渡して、足をしっかりと支えて立ち上がった。細身の琴美はやぱり軽かった。


「先生、ありがとうございました」

「気を付けて帰るのよ」


 俺たちは先生にお礼を言って、学校を後にした。

 本当は今日にでも祝勝会を開きたかったが、琴美をおんぶしたまま、買い物に行くのは難しかったので、明日にすることにした。

 

「今日はほんとにお疲れ様」

「最後はあれだったけど、楽しかったな~。蒼月君も、ヒット打った姿かっこよかったお」

「まあ、まぐれだけどな。ありがと」

「試合に出てよかったでしょ?」

「そうだな……」


 俺は今日の試合を思い出して笑顔になった。

 なんだかんだ、楽しかったな。初めは嫌だったけど、たまにならいいかな。

 

「その笑顔を見れて私は嬉しいよ。よっぽど、楽しかったんだね」

「そんなに笑ってるか?」

「うん。こんな顔してるよ」


 琴美は最高の笑顔を俺に向けていた。

 

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