第58話

 俺たちのクラスは一回戦と二回戦を順調に勝ち上がって準決勝まで進んでいた。

 これが愛の力というやつか。俺はヒットを二本も打った。そのうちの一本が得点につながって二回戦を勝つことができた。


「蒼月やったな!」

「たまたまだよ」


 二回戦が終了して、英彦が嬉しそうに肩を組んできた。

 実を言うと、二回戦はかなりの戦線だった。結果的に俺の一点が勝負を分けたが、どっちが勝ってもおかしくないくらいの拮抗した試合だった。

 他のチームメイトも俺のもとに駆け寄ってきて、声をかけてくれた。


「佐伯、野球うまいんだな」

「お前のおかげで勝てたよ」

「マジで、ありがとう」


 どう対応していいか困って英彦を見ると、楽しそうにその様子を眺めるだけで、助けてくれようとはしなかった。

 俺がしばらくぎこちない会話をチームメイトと交わしていると、準決勝を始めると審判の先生が呼びかけをした。そこで、ようやく俺は解放された。


「すっかりと人気者になったな」

「お前なぁ。助けろよ」

「たまにはこういうのもいいだろ。そろそろ、クラスの輪になじめよ」

「めんどくさい」

「そんなこと言って本当は嬉しいんだろ」


 俺は照れ隠しで、英彦の脇腹を肘でつついてやった。

 そして、準決勝が始まった。結果を言うと、俺たちはそこで負けた。準決勝もかなりの接戦だったが、四番の俺がチャンスをうまくつかむことができずに得点を撮ることができなかった。


「ごめん。みんな……」

「気にすることはないさ」

「そうだぞ」

「俺たちはここまで勝ち残れただけで十分楽しかったし」


 俺が悔しがっていると、みんなが慰めてくれた。

 なんかいいなこういうの。今まで避けてきたけど、なんか、心が温かくなる。


「な、たまにはいいだろこういうのも」

「そうだな」

「さ、女子の応援に行くかー!」


 英彦がそう言って、チームメイトたちがみんな賛同した。

 俺たちは、バスケットボールとバレーボールをやっている、体育館に向かった。


「すげぇ人がいるな」

「そうだな」

「お目当ては……お前の彼女だろうな」

「なっ……」


 よく見てみると、ちょうど俺たちのクラスの女子がバスケットボールの準決勝をしているところだった。そして、ちょうど琴美がシュートを決めて、会場が盛り上がった。


「さすが、女神さまだな」

「……」

「まあ、そんなに嫉妬するなよ」

「してない」


 久しぶりに琴美の人気さを知って、俺は少し動揺していた。別に琴美が俺以外の誰かを好きなるとかは心配していなかったが、それでもやっぱり胸がちくっと痛んだ。


「ほら、またシュートを決めたぞ。お前の女神」

「分かってるよ、ちゃんと見てるから」

 

 琴美と目が合った。その瞬間、琴美の顔に花が咲いた。

 そして、俺のもとに駆け寄ってきた。


「蒼月君、見た?」

「ああ、見てたぞ」

「どうだった?」

「ナイスシュートだったな……」

「ありがと」


 そう言い残すと、琴美は試合に戻っていった。

 なぜか、視線を感じる。


「こんなに堂々といちゃつくとは」

「なっ……。そんなつもりは」

「お前はなくても、他のやつはそうは思わんだろ」

「そうだな。自粛する……」


 そして、この感覚も久しぶりだった。

 嫉妬と羨望の視線を向けれられるこの感覚。最近はなかったんだけどな。だけど、俺に向けられた視線はすぐに別の場所に向いた。

 琴美が次々とシュートを決めていく。やっぱり琴美は運動神経がいいな。

 そして、琴美たちは準決勝に勝利して、決勝に進んだ。しかも、バレーボールも決勝に進んでいるらしい。さすがは、琴美だなと感心するしかなかった。

 

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