第56話
それは球技大会前日の体育の授業で起きた。
「ということで、俺がソフトボールに出ないといけなくなった」
俺はソファーに体育での顛末を話していた。
「そっか。それは災難だったね」
「なあ、なんでそんなに笑顔なんだ?」
「だって、その生徒は悪いけど、蒼月君が球技をやってる姿が見れるんでしょ? それに、応援もできるし」
そうなんだ。今日の体育の授業でサッカーをしていたら、ソフトボールに出る予定だった生徒がケガをして、補欠の惚れが出場しなければならなくなってしまった。こんなことになるなら、手なんて挙げなければよかったと、後悔している。
「まあ、そんなに落ち込まないでよ。私が応援してあげるんだから」
「そうだな。琴美に応援してもらえると思ったら、少しくらいの恥はかいてもいいかもな」
「そんなに球技が苦手なの?」
「というか、運動自体があんまり得意じゃない」
小さなころから葵に過保護に育てられた俺は外で遊ぶということをあんまりしてこなかった。そのせいか、運動というものに苦手意識ができてしまって、正直体育の授業ですら無理をして頑張っているくらいだ。
「なら、今度一緒に何かスポーツしようよ!」
「そうだな。気が向いたらな」
「約束だからね」
「分かったよ」
「ということでご飯食べよっか」
テーブルには二つのかつ丼が置いてあった。明日が球技大会本番ということもあって、琴美はゲン担ぎでかつ丼を作っていた。
「明日、勝てるといいな」
「うん。勝ちたい!」
「でも、無理しすぎるなよ。二つの種目に出るんだから」
「分かってるよ~」
琴美はそう言って、カツを口いっぱいに頬張った。
「やっぱり琴美のご飯は最高だ。これなら、明日もきっと勝てるな」
「そ、ふ、だね」
「食べてから話せよ」
琴美はカツを飲み込んだ。
「蒼月君も頑張ってな」
「まあ、ケガしない程度に頑張るよ」
「でも、勝負するからには勝たないと!」
「琴美もテンション高いな」
「だって、楽しみなんだもん! 応援に来てね!」
「ああ、もちろん応援にいくよ」
そんな琴美に若干な不安を覚えつつ、俺は全力で応援しようと心に決めた。
何かあればすぐに助けれるように。
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