第52話

 葵との電話が終わったタイミングで琴美がリビングに入ってきた。


「蒼月君~。お風呂から上がったよ~」

「おかえり」

「あ~。蒼月君、まだ髪乾かしてないの?」


 お風呂上がりでまだ髪を乾かしていない琴美が俺の隣に座った。

 ほんのりとシャンプーの匂いが漂ってきた。

 お風呂上がりの琴美はいつも以上に美人で直視できなかった。


「何してたの?」

「ちょっとな……」

「怪しい~」


 そう言って、琴美がぐいっと顔を近づけてくる。


「電話してたんだよ!」 

「ふ~ん。誰と?」

「言わなきゃダメか?」

「言わないなら離れないよ?」


 そう言って琴美は怪しむ目で俺のことを見てきた。絶対に何か誤解をしている。

 

「お母さんだよ。なんなら、履歴見るか?」

「いいよ。そこまでは。蒼月君のことを信用しているから」

「その割には目が怖かったんだが……?」

「だって、心配なんだもん」

「心配しなくても俺は琴美以外を好きになったりしないよ」

「もう! そんなこと言ってないで髪を乾かすよ。ほら、こっち着て!」


 琴美は頬を赤くして、俺に後ろを向くように言った。俺はその指示に従って、琴美に背中を向けた。すると、すぐに俺の髪の毛に琴美の手が触れた。ゆっくりと、俺の髪をかき回すように乾かしてくれた。

 こういうのもいいな。恋人同士って感じがする。


「はい。乾いたよ」

 

 そう言って、琴美は最後に俺の髪をわしゃわしゃとした。


「ありがと。最後のやつは余計だけどな」

「私を心配させた罰だよーっだ」


 そう言って、琴美はベーと舌を出した。こんなかわいい罰ゲームを受けれるなら、たまには琴美を心配させるのもいいかなと思ってしまった。


「心配させたお詫びをしないとな」


 俺は琴美の手からドライヤーを取って、髪を乾かしてあげることにした。


「じゃあ、やってもらおうかな」


 そう言って、琴美は俺に背中を向けて、体を預けてきた。


「ちょっと、そんなに密着してたらやりずらいだろ」

「いいじゃん。やりずらいだけで、できないわけじゃないんだから」

「まあ、そうだけど……」

「じゃあ、よろしくね。蒼月君」


 琴美は俺の顔を見上げてニコッと微笑んだ。

 俺は琴美の髪を丁寧に乾かしてった。琴美の髪の毛は思った以上にサラサラとしていた。そして、たまにふわっと漂ってくるシャンプーの匂いは俺と同じ匂いで、ドキドキさせられた。


「そういえば、俺の家のシャンプーで洗ってよかったのか? いつも使ってるシャンプーがあったりしないのか?」

「あったけど、高いやつだからお母さんが持って行っちゃった」

「そうなのか」

「まあ、私はあんまりそういうの気にしてなかったんだけどね。それに、今は蒼月君と同じ匂いだからそれでいいかなって」

「そ、そうか……」


 琴美の発言になんだか気恥ずかしくなって、俺は髪が乾くまで黙っていた。


「乾いたぞ」

「ん、ありがと。なんか、こういうの恋人っぽくていいね」

「そうだな」


 そのあとは特に何もなく、それぞれがお互いの部屋に入って眠った。


 

 

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