第51話 超絶美少女と同棲(夜)

 琴美の手料理を食べて俺たちはソファーに座っていた。


「この後、帰らなくてもいいんだね。なんか不思議な感じ」

 

 琴美が静かに呟いた。いつもなら、一緒にご飯を食べた後、少し休憩をして琴美は自分の家に帰っていく。だけど、今日からは違う。琴美はこの後も俺の家にいる。


「この後、どうしようか?」

「そうだな。お風呂でも入るか?」

「え……もしかして一緒に入るかって意味……」

「ち、違う!」

 

 俺は強めに否定した。


「分かってるよ」


 琴美はゲラゲラと笑っている。


「まあでもお風呂には入りたいね」

「そ、そうだな。お風呂ためるか」


 俺は立ち上がってお風呂場に向かった。

 琴美も後をつけてくる。


「へ~。綺麗なお風呂だね」

「まあ、まだ数年しか経ってない新築だからな」

「いいな~。私が住んでた家とは大違い」

「お風呂は一応あったんだろ?」

「まあね」


 とはいっても、あのボロい家だからお風呂があるだけましといったところか。


「こんなにきれいなお風呂に入るの久しぶりだから楽しみ~」

「それはよかったな」

「早くお風呂ためようよ~」

「そうだな」


 俺は蛇口をひねってバスタブにお湯をためていった。

 お風呂がたまるまで数十分。俺たちはテレビを見ながら談笑をしながら待った。


「そろそろたまったかな~」

「そうだな」

「ねぇ、入浴剤入れてもいい?」

「もちろんいいぞ」


 そう言って、琴美は入浴剤を取りに自分の部屋に向かった。まったく、用意周到だな。一応、俺も入浴剤を持っているが、今日は琴美が持ってきてるやつを使わせてもらうことにしよう。


「これにしよ~」

「オレンジの香りか?」

「うん。めっちゃいい匂いがするんだよ」


 ポチャンとお風呂の中にその入浴剤を入れた。その瞬間、一気にお風呂場にオレンジのフローラルな匂いが漂い始めた。

 

「ほんとだいい匂いだな」

「でしょ~」

「琴美が先に入るか?」

「んー。本当は一緒に入りたいんだけど、それはまた今度ってことにしといてあげる」


 琴美が妖艶な笑みをうかべてそう言った。


「絶対に無理だから! 今は……」

「今はね! だから、今日は蒼月君が先に入ってもいいよ」

「……分かった」


 ということで、俺からお風呂に入ることになった。


「せっかくのオレンジのいい匂いで心が落ち着くはずが……」

  

 落ち着かねーーーーーー!!

 琴美の一緒にお風呂に入ろう発言は予想以上心を俺の心を揺さぶっている。

 困難で大丈夫なのだろうか。これから、琴美と一緒に生活していけるのだろうか。そして、いつかは一緒にお風呂に入るときが来るのだろうか……。

 俺はのぼせる前にお風呂からあがった。


「琴美。上がったぞ」

「おかえり~」


 リビングに戻ると琴美が誰かと電話していた。


「蒼月君がお風呂から上がってきたので、切りますね。はい。また」

 

 そう言って琴美は電話を切って、俺の方を向いた。

 

「お母様から。いつもこのくらいの時間にかかってくるの」

「そうなのか。悪いな。お母さんの相手をさせてしまって」

「全然平気。私も楽しいし。私のお母さんはあんなんだからね。こういうことあんまりないから。あ、心配はしないでね。ちゃんと会話はしてるから」

「二人とも強烈な母親を持つと苦労するな」

「ほんとにね」


 琴美は苦笑いを浮かべていた。


「さて、私もお風呂に入ってくるかな」

「ああ、いってらっしゃい」

「うん」


 そう言うと琴美は一旦自分の部屋に戻ってからお風呂場に向かってお風呂に入った。

 俺はスマホを自室から持ってきて葵に電話をかけた。


「もしもし」

『もしもし。蒼月から電話してくるなんて珍しいわね』

「そうだったか? まあ、そんなことはどうでもいいよ。それより……」

『ん? どうしたの?』

「いや、なんでもない」

『何よ~。変な子ね』

「仕事は順調か?」

『そうね。順調よ』

「そうか。ならいいんだ。じゃあ、また冬休みにな」

『冬休みまで連絡してこない気なの?』

「まあ、特に予定もないしな」

『ひどい息子ね。琴美ちゃんを見習ってほしいわ』

 

 電話の向こうで葵が頬を膨らませてるのが想像できる。


「てか、お母さんが勝手に琴美に着き合わせてるだけだろ」

『まあ、そうともいうわね』

「そうしかいわねえよ」


 そんなやり取りを葵としてたら、お風呂場から音がした。


「琴美があがってきたからそろそろ切るぞ」

『今度はちゃんと帰ってくるのよ』

「わかってるよ。じゃあ、三か月後な」


 そう言って、俺は電話を切った。



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