第42話 超絶美少女の過去(おでん)

 私はお父さんが大好きだった。

 いつも、お父さんの後をついてまわってた。

 そんなお父さんは、死んだ。

 過労だったらしい。


 それが、蒼月君に初めて会った少し前のこと。

 中三の時の私はその現実を受け入れることができなかった。


「お父さんはもういないのよ! いい加減認めなさい!」

「いや! まだ、お父さんは生きてるもん!」


 私は家を飛び出した。あてもなく、雪の降るなか私は歩いた。


「会いたいよ。お父さん・・・・・・」


 お父さんはもういない。そんなことは分かってる。私だってもう子供じゃない。でも、心がまだ認めていなかった。お父さんが死んだことを。


「どこにいるの・・・・・・」


 私はどこに行けばいいのだろうか。何を目的に生きればいいのだろう。いつもお父さんの背中ばかりを追いかけてきた私は迷子になっていた。


 お父さんは小説家だった。決して有名ではなかったけど、私はお父さんの書くお話が大好きだった。お父さんの小説はいつも私の心を温めてくれた。私の今の心は冷たい。極寒のように冷たい。お父さんが死んで、しばらく本を読んでいない。読んでしまえば嫌でも思い出してしまうから。


「どうしよう。これから・・・・・・」


 行く宛もなく歩くには今日は寒すぎた。勢いで飛び出してしまった私は薄着だった。

 寒い。私はその場に立ち止まって肩をさすった。

 ここはどこだろう。気がついたら、私は知らないところにいた。


「大丈夫ですか?」


 その声は優しくて温かくて、まるでお父さんみたいな声だった。

 私はその声のした方を向いた。そこに立っていたのはお父さんではなく、私と同じ歳くらいの男の子だった。


「大丈夫です」


 私はそっけない態度を取った。正直声をかけてほしくなかった。私の気持ちは誰にも分からない。他人のあなたには理解できない。

 早く、どこかに行ってほしかった。

 なのに、その男の子はさらに声をかけてきた。まるで、私の心を見透かすように。お父さんによく似た声で。

 その時、私のお腹がなった。ちょうど、夕食前のことだったので、ご飯を食べていなかった。


「もしかして、ご飯食べてないの?」


 彼がそんなことを言ってきた。

 お腹が何回も鳴る。私はだんだんと恥ずかしくなってきた。そして、頷いた。


「よかったら、これ」


 そうしたら、彼が私の前に書いた手のおでんを差し出した。

 私は受け取ろうか少し迷った。結局、私は空腹には勝てずにおでんを受け取ることにした。

 両手に持ったおでんの容器は温かくて、私の冷たい手をどんどん温めていった。


 おでんを私に渡し終えた彼が立ち去ろうとした。


「・・・・・・あの、ありがとうございます」


 私は彼にお礼を言った。

 彼が立ち去った後、私はその場にしゃがみ込んでおでんを食べた。そのおでんは極寒だった私の心を温めるのには充分だった。


 おでんを食べ終えて、少し落ち着いた私は家に帰ることにした。

 お父さんはもういない。今は、まだそれを受け入れることはできないけど、少しずつ、本当に少しづつお父さんがいない世界に慣れていこうと思った。

 

「琴美! よかったー! もう、帰ってこないかと思ってたわ。おかえり琴美」


 家に帰るとお母さんが泣きそうな顔で抱きついてきた。私も泣いた。思いっきり泣いた。そして、お母さんに謝った。

 

「お母さんごめんなさい」

「ご飯食べる?」

「ううん、いい」


 私のお腹は彼がくれたおでんで満たされていた。今はそれ以外何もお腹に入れたくなかった。

 彼は一体誰だったのだろうか。そういえば名前を聞くのを忘れた。でもいっか、私はなんだか彼とはまた会える気がしていた。

 

 もしも、また彼に会えたら恩返しをしよう。そう心に決めて私はお父さんが書いた小説を開いた。


 

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