第40話 超絶美少女と夏休み明けの学校(カレーライス」

 一ヶ月ぶりの学校はなんだか落ち着かなかった。それというのも、琴美の遠慮がなくなっていたからだ。


「なぁ、琴美。もう少し遠慮してくれませんか? さっきからクラス中の視線集めまくりなんだが」

「え、私は気にしないよ」

「琴美が気にしなくても、俺が気にするの」

「むぅー。ちゃんと私のものだよって示しとかないと」

「安心しろ。琴美以外のものにはならないから」


 そんな言葉を琴美の耳元で囁けば、一気に顔を赤くして俯いてしまった。


「お二人さん。朝から熱いね〜」


 そんな様子を見ていた英彦が俺たちをからかいにやってきた。


「蒼月。もう、諦めろ。今日中には全校生徒にこのことは知れ渡るだろう」

「マジか。勘弁してほしい。せっかくの穏やかな学校生活が・・・・・・」

「まあ、女神様と付き合ってる代償だと思ってがんばれ」

「代償ってお前なぁー」


 俺は呆れるように英彦に言った。

 代償ね。琴美と付き合ってることをそんな風には思いたくないな。でも、覚悟は決めるしかないのかもな。もう、人の目をいちいち気にするのはやめよう。

 俺は下を向いている琴美の頭をそっとなでた。


「まあ、なんだ、ほどほどにしてくれるならいいぞ」

「ほんとうにいいの? 迷惑じゃない?」

「ああ」

「ありがと」


 琴美はニコッと笑った。その顔はまだ少し赤かった。


 そんな騒がしい朝の時間はテストが始まると一変した。皆が真剣にテストに取り組んでいる。もちろん、俺も琴美も。

 容姿もコミニュケーション能力の高さも琴美に遠く及ばないけど、せめて勉強くらいは琴美と並んでいたい。そう思った。


「終わった〜。蒼月君帰ろ!」


 テストを終えて上機嫌の琴美が俺の席に駆け寄ってきた。

 今回の俺のテストの出来は正直いい方だと思っている。前回よりも迷うことなく問題をとくことができた。あとは結果を待つのみ。果たして、前回一位だった琴美に勝つことはできるのか。


「そうだな。帰るか」


  俺たちは一緒に学校から出て、そのまま買い物に向かった。

 テストですっかり忘れていたが、英彦が言っていた通り俺たちの噂は学校中に広がっているようだった。


「さて、今日の夕食は何がいい?」

「う〜ん。そうだな。琴美の料理だったらなんでもいいんだけどな〜。それだと困るだろ?」

「困りはしないんだけど、蒼月君の食べたいものを作ってあげたいと思っただけ」


 全く、嬉しいことを言ってくれる。

 それなら、俺も提案しないわけにはいかないな。


「じゃあ、カレーライスとかどう?」

「分かった。腕を振るっちゃうよ〜」


 琴美は腕捲りをして張り切っている感じだった。

 俺たちは帰り道にあるスーパーでカレーの材料を買って帰った。


「ただいま〜」

「ここは琴美の家じゃないだろ」

「え〜。これからそうなるんだからいいじゃん」

「うっ・・・・・・」

「ほら早く入ろうよ」


 琴美はさも自分の家かのように俺の家に入っていった。俺も後を追う。

 これからも毎日のように琴美は俺の家に来てくれるんだよな。合鍵を渡しとくか。

 俺は材料をキッチンに置いた。


「蒼月君テストはどうだった?」

「手応えありと言ったところかな」

「私に勝てそう?」


 琴美はニヤニヤと笑っていた。

 この様子だと琴美も相当自信があるようだ。


「どうだろうな。前回一位様も相当自信があるようだし」

「まあね。今回も一位の自信くらいならあるよ」

「少しは謙遜しろよ」

「だって事実だもん」


 胸を張って自信満々に言い切る琴美を見ていたら、なんだか、今回も負けてそうな気がしてきた。


「楽しみだなー。今回は何を聞こうかなー」

「まだ、分かんないだろ。俺が勝つかもしれないし」

「そうだね。勝てるといいね」


 ここまで、言い切られると逆に怒りも湧いてこない。結局、どっちが勝っても相手の知りたいことを知れるんだから。どっちも損はしないんだけどな。


「さて、カレーライス作っちゃうね〜」

「俺も手伝うよ」

「うん。一緒に作ろう。今回も玉ねぎからのお願いね〜」

「また、俺を泣かせて笑う気だな」

「バレたか〜!」


 琴美は逃げるようにキッチンに走っていった。

 すごく幸せだ。他愛もない会話がこんなに幸せに思えるのは、お互いが相手のことをしっかりと考えてるからだ。

 どうしたら、楽しく過ごせるか。どうしたら、幸せになれるか。

 幸せってこうして作っていくんだな。俺はそう思いながら、琴美の隣に立った。

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