第37話 超絶美少女と海の帰り道

 俺たちはその後、夕日が沈むまで海で遊んだ。

 そして、シャワーと着替えをして電車に乗った。俺たちは四人がけの椅子に、俺と琴美、英彦とアリスが隣になるように向かい合って座った。


「アリス、今日は一緒に来てくれてありがとうね」

「こっちこそ、誘ってくれてありがと。琴美に誘ってもらわなかったら今年は海に来てなかっただろうし。それに楽しかった」

「なら、よかった。また来年も行こうね」


 琴美は眩しい笑顔をアリスに向けた。


「そうね。行きましょう」

「やった、約束ね!」

「ええ、約束」

 

 琴美とアリスは子供のように指切りをして約束を交わした。


「これは別れられないな」


 英彦が俺に耳打ちをしてきた。


「別れるつもりなんてないよ。英彦もだろ。

「まあな」

「なに、なに、なんの話をしてるの〜?」

「男と男の約束だから秘密」


 英彦はにニカっと笑って誤魔化した。

 英彦に言われなくても琴美と別れるつもりはない。そもそも、琴美と別れるなんて想像ができなかった。むしろ、結婚するする未来の方が容易に想像できた。

 俺の家のキッチンで料理をする琴美。一緒のソファーに座ってテレビを見る琴美。一緒に読書をする琴美。どの琴美の姿もこの夏休みの間に見たものだった。

 

「蒼月君、教えてよ〜」

「ダメだ。男と男の約束だからな」

「え〜。ケチ〜」


 琴美は頬を膨らませて窓の方を向いた。その顔は不満というより、嬉しそうだった。

 それから、三十分くらい四人で談笑をした。目的まで残り半分の駅に到着したところで隣から寝息らしきものが聞こえてきた。


「どうやら寝ちゃった見たいね」

「そうみたいだね」

 

 琴美は遊び疲れて眠ってしまったみたいだった。

 電車が再び動き出す。そのしんどうで琴美の頭が俺の方にもたれかかってきた。俺は琴美が前に倒れないように肩をしっかりと抱いた。


「すっかりと恋人同士ね」

「だな」


 向かいに座っている英彦たちがその様子を見て感慨深そうに俺たちのことを見ていた。

 俺のことを見てきた英彦と琴美のことを見てきたアリスだからこそ、そんな目で俺たちのことを見れるのだろうな。本当に二人には感謝しかなかった。


「二人ともありがとう」

「別に俺たちは何もしてないよな」

「そうね。私たちはただ見守ってただけ。最後に決めたのは二人でしょ」


 そうだな。選んだのは俺たち自身だ。きっとこれから先もたくさんの選択を迫られる時が来るだろう。俺はその時に間違った選択をすることなく、正しい道を選ぶことができるのだろうか。いや、できるのかじゃないな、選ばないといけないな。琴美が悲しまない未来を。琴美が幸せになれる未来を。

 俺は琴美の頭をそっと撫でた。


 琴美は最寄駅についても起きることはなかった。


「じゃあ、ここで解散だな。しっかりと家まで送り届けてやれよ」

「分かってるよ」

「じゃあ、また学校でな」

「おう。また学校で。平子さんもまた学校で」

「ええ、また学校で。琴美によろしく」


 英彦たちとは改札で分かれて、俺は琴美をおぶったまま帰路についた。

 その途中何度か琴美に声をかけてみたが一向に起きる気配がなかった。スヤスヤと気持ちのよさそうな寝顔で眠っている。 

 

 琴美の家までは駅から徒歩で二十分くらいだった。さすがに、家に着くまでには起きて欲しいと思っていたのに、結局、琴美は家に着くまで起きなかった。


「琴美、琴美、家に着いたぞ」

「ん〜」


 ようやく目を覚ましたのか、琴美は俺の背中のうえで伸びをしていた。


「あれ、ここは? って、私・・・・・・」


 自分の状況に気がついた琴美はバタバタと足を動かして降りようとした。


「こら、動くなて、今降ろすから」

「は、早く降ろして!」


 琴美はなぜか必死だった。そして顔を赤くしている。そんな琴美を俺はそっと降ろした。


「・・・・・・お、重くなかった?」

「全然、むしろ軽いくらいだったよ」

「よかった・・・・・・」


 琴美はホッとしたような顔になった。もしかして体重のことを気にしてたのか。琴美は驚くほど軽かった。まあ、あのスタイルだからな。


「家まで送ってくれてありがと」

「どういたしまして」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 なぜか、二人の間に気まずい空気が流れた。琴美も同じことを思っているのだろうか。

 まだ一緒にいたい・・・・・・。

 俺は琴美のウルっとした瞳を見つめた。琴美も俺の目を見つめ返してきた。

 そして、次の瞬間、琴美が一気に距離お詰めてきて、俺の顔と琴美の顔の距離がゼロ距離になった。 

 唇に柔らかい感触が伝わった。


「ま、また明日ね」

「・・・・・・」


 その感触が琴美の唇だと気がついたのは、顔を真っ赤にした琴美が逃げるように家に入ってからだった。

 えーーーーーー!!

 さすがに、住宅街で叫ぶことはできなかったので、俺は心の中で思いっきりそう叫んだ。

 俺はその場に立ち尽くして幸せを噛み締めてることとなった。

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