第32話 蒼月の心配
琴美と恋人になった次の日、俺はストーカーをしていた。
いつものように、朝十一時時ごろにやってきて、午後十五時に帰って行く琴美。(たまには、十七時くらいまでいることもある)
今日も十五時に帰った琴美の後をこっそりとつけているのであった。
どうしてそんなことをしているかというと、昨日、琴美がくれたネックレスはやっぱり高価なものらしく、あの家に住んでいる琴美にはそうそう買える代物ではないと思ったからだ。
きっと、これには裏がある。恋人を疑うようなことをして申し訳ないのだが、俺はストーカーを決行することにした。
本音はただ単に心配なだけだ。超絶美少女の俺の彼女が変なことに巻き込まれてないかと。
いつだったか、俺の家に来た後は図書館によって帰ると言っていたのを思い出した。でも、今日は図書館には行かないらしい。
琴美は迷いのない足取りで商店街に入って行く。
その商店街はそこそこ賑わってた。琴美は自分に向けられている視線など気にすることなく、どんどんとその商店街を進んでいき、あるお店に入った。
そのお店はオシャレなカフェだった。
ガラス張りになってるところから、中を見てみるとかなり繁盛しているようだった。
こんなところに何のようがあるのだろうか。琴美の姿を探してみたけど、どこにもいなかった。
俺はそのカフェに入ってみることにした。
カフェの名前は「エクレア」だった。
エクレアってあのエクレアか?
そんなことを思いながら、案内された席でメニューを開くと、当店のイチオシというところに、エクレアの写真がドーンと載っていた。それ以外にもサンドイッチやスパゲッティもあるらしい。
どうやら、あのエクレアから名前をとっているみたいだった。
「メニューがお決まりでしたら、お声掛けください」
女性の店員はそう言って、他の席に向かっていった。見たところ、ホールにいる従業員はその女性の店員以外に2人。2人とも女性で、1人は大学生くらいの若い女性。もう1人は、カウンターにいて、いかにもマダムっていう感じのメイクをしている歳のいった女性だった。おそらく、そのマダムがこの店の店長か何かだろう。
俺はエクレアとコーヒーを頼んだ。
店内はカウンター席が5席と4人座れるテーブル席が10席あった。
ちょうど、カウンター席が一つだけ空いていたので、俺はそこに案内された。
エクレアが運ばれてきて一口食べる。
なんだか、最近どこかで食べたような味がした。気のせいかなと思ってもう一度食べる。そのエクレアは絶品だった。チョコレートのほろ苦さとカスタードクリームの甘さがいい感じに混ざり合っていた。
「このエクレア美味しいです」
つい、感極まってカウンターにいたマダムに話しかけてしまった。
「ありがとうございます。実はそのエクレアつい最近改良したんですよ。新しくお店に来てくれたバイトの子がやってくれたの。そしたらね、一気に人気になっちゃって、ちょっと前まで、1人、2人、お客さんがいればいい方って感じだったのに、今ではすっかりエクレア目当てでくるお客さんで埋まっちゃって」
よほど、客足が増えたことが嬉しいのだろう。マダムは饒舌にそう語ってくれた。
「実は、僕、甘いものには目がなくて。こんなに美味しいエクレアを食べたのは初めてです」
「そう言ってもらえると、私も嬉しいわね〜。あの子にも同じこと言ってあげてちょうだい」
そう言ってマダムは奥へと入って行って、そのエクレアを改良したというバイトの子を呼んできた。
「店長。どうしたんですか? 私はホールには出ないって約束じゃ〜」
「いいから、いいから、ついてらっしゃい」
マダムに手を引かれるようにカウンターにやってきたのは1人の女性だった。というか、俺の恋人だ。頭に髪の毛が料理に入るのを防ぐために帽子をつけていて、顔のほとんどをマスクで覆って、白い従業員用の服を着ているけど、見間違えるわけがない。ついさっきまで一緒にいた琴美のことを。
「この子がさっき言ってたバイトの子。て、どうしたの2人とも顔を見合わせちゃって」
マダムは不思議そうな顔をしていた。
琴美はというと、目しか見えないが、その目はなんでここにいるのと言っているようだった。
俺はそれはこっちのセリフだと目で訴えた。
「このお客さんがね。琴美ちゃんの改良してくれたエクレアは世界一美味しいって」
そんな2人の動揺など気にせずマダムは話を進める。
「どうしたの2人ともさっきから一言も喋らないで?」
マダムは2人の顔を交互に見てきょとんとしていた。
「店長、私は仕事があるので戻りますね」
「あら、そう? もう少しいればいいのに」
琴美はチラッと俺のことを見て、奥へ戻っていった。
「どうしたのかしら、いつもはもっと喋る子なのに」
「さぁ・・・・・・」
俺はコーヒーを一口飲んだ。
マダムとその後、少し話をして、俺は店を後にした。
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