第30話 超絶美少女と誕生日(オムライス&手作りケーキ)
花火大会の夜。突然の告白をしてきた琴美は五日間、俺の家にはやってこなかった。
こっちから告白の返事を連絡をしようかと思ったけど、それはそれでどうなんだと思った。大切なことは面と向かって言いたい。相手の顔を見てちゃんと伝えたいと思った。
そんな悶々とした日々を過ごしていたら昨日、琴美から連絡がきて、今日家にやってくるということだった。
「どんな顔して会えばいいんだよ……」
俺は琴美のことを好きだ。この気持ちは嘘じゃない。告白をされたあの日、その場で返事をできなかったことを後悔している。(実際にはそんな暇なかったんだけど)
もしも、あの場で返事をできていたらこの五日間も一緒にいられたんじゃないだろうか。離れてみて、琴美のいることの幸せさに気づかされた。
俺はこの五日間、ご飯をあまり食べることができなかった。一日に一食。それが限界だった。コンビニ弁当が体に受け付けなかったのだ。もう、琴美のご飯なしでは生きられない体になってしまっているらしい。
そんなことを考えていたら家の呼び鈴がなった。
琴美がやってきた。
俺が玄関の扉を開けるとそこには五日ぶりの琴美が立っていた。
「久しぶり……」
「久しぶり。入る?」
「うん」
琴美は緊張した面持ちで家の中に入った。その手には何やら箱みたいなものを持っていた。
今日の琴美の服装は、水色のノースリーブに足のシルエットが綺麗に見えるジョガーパンツを履いていて、肩からピンクのショルダーバックかけていた。
「蒼月君」
俺は名前をいきなり呼ばれてドキッとした。
「はい」
琴美がグイっと顔を近づけてくる。
「蒼月君、ご飯ちゃんと食べてないでしょ。顔色悪いよ」
「……」
まったくその通りだったので俺は何も言い返すことができなかった。
「今ご飯作るから、蒼月君はソファーに座ってて」
「はい」
俺は琴美の言う通りにすることにした。実は、立っているのも限界なほど、俺は弱っていた。
琴美がキッチンに移動して手に持っていた箱を冷蔵庫に入れた。その代わりに冷蔵庫からいくつかの食材を取り出して、キッチンに並べていった。
久しぶりに俺の家のキッチンに立つはずなのに、琴美の手際は何一つ変わっていなかった。あっという間に、ご飯を完成させてしまった。
「オムライス……」
「そうだよ。食べれる?」
「うん。大丈夫」
俺は琴美からスプーンを受け取ってオムライスを一口食べた。
ああ、やっぱりこの味は最高だ。俺はオムライスを急いで口にかきこんだ。そして、むせた。
「もう、そんなに急いで食べなくても、オムライスも私も逃げないよ」
「知ってる、美味しくてつい。それと、もう離さないから」
俺は琴美の手を引っ張って抱き寄せた。
「ちょっと、蒼月君……」
「少しだけこうさせて」
「……」
琴美は逃げることも離れることもせず、俺の抱擁を受け入れてくれていた。
「ありがと」
俺は琴美からそっと離れた。
「うん。顔色もよくなったね」
「ほんとに、ありがと」
「蒼月君、まだお腹は空いてますか?」
「空いてるけど……」
琴美がキッチンに向かった。冷蔵庫を開けて、箱を持ってきた。
「蒼月君。誕生日おめでとう」
「え……」
「あれ、今日誕生日だよね?」
「そっか……」
今日は八月二十日か。すっかりと自分の誕生日のことを忘れてしまっていた。そうか今日は俺の誕生日か。琴美は俺の誕生日を覚えていてくれたんだな。
涙が流れてきた。
「あり、がと」
「ちょっと、泣かないでよ。早く開けてみて」
「うん」
俺は箱をそっと開けた。中にはケーキが入っていた。
「これって、もしかして?」
「手作りケーキだよ。チョコレートケーキ食べれるよね?」
「うん。大好き」
「よかった」
琴美がケーキを切り分けて僕の前に置いてくれた。琴美が作ってきたチョコレートケーキはお店顔負けの立派なものだった。形も綺麗で、デコレーションも可愛かった。チョコレートの文字で誕生日おめでとうと書いてあるホワイトチョコレートの板が乗っていた。
「凄いな」
「早く食べてよ」
「食べるのもったいない」
「何回でも作ってあげるから、食べてよ」
琴美は恥ずかしそうにそう言った。
何回でも作ってあげるか。
俺はチョコレートケーキを一口食べた。ビターチョコレートとミルクチョコレート。ほろ苦くて甘い。その2つが混ざり合って一つになって最高の味を出していた。
「なあ、琴美」
「え、今、名前……」
俺があまりにも自然に名前を言ったので、琴美は大きな瞳をぱちくりとさせていた。
「嫌だった?」
「ううん。嬉しい」
「よかった」
琴美は大きな瞳をうるうるとさせていた。そこに追い打ちをかけるようで悪いけど、俺の気持ちはもう抑えれそうになかった。
「琴美。この前のことだけど……」
「うん」
「俺も、琴美のことが好きだ」
「うん」
「だから、俺と付き合ってくれませんか?」
「うん」
琴美は俺の胸に飛び込んできた。俺はそっと受け止めた琴美の背中に手をまわした。
「蒼月君……」
「ん?」
「私も蒼月君のことが好き。大好き」
琴美は顔をあげてそう言った。その顔は大粒の涙を流していて、笑顔だった。どんな顔をしていても琴美は美しかった。
こうして、俺と琴美は恋人になったのであった。
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