第29話 超絶美少女と夏祭り
着物屋さんで浴衣をレンタルした俺たちはお祭り会場の神社にやってきていた。
さすがにお祭りということもあって、いつもは閑散としている神社も活気だっていた。いたるところに俺たちと同じような浴衣を着た人で溢れかえっていた。
神社の入り口の掲示板に貼ってあった張り紙に書いてあったのだが、この祭りのメインは花火らしい。
「花火もあるんだな」
「そ、そうみたいだね」
なぜか、ここにきてからずっと琴美の歯切れが悪い。
さっきから、ずっと無言だった。何かに緊張しているようなそんな感じがした。
「どうした? 具合でも悪いか?」
「ううん。大丈夫」
「そっか。何か食べよっか」
「そうだね」
お祭りなので当然、屋台がたくさん並んでいた。焼きそばに唐揚げにわたあめ。金魚すくいや射的まであった。
「何食べる?」
「うーん。やっぱり、りんご飴は欠かせないよね」
「ご飯じゃないのかよ」
「ご飯も食べるよ。焼きそば買おうよー。唐揚げも」
さっきまで無言だったのに、お腹は正直というか。屋台を回っている間は琴美はいきなり饒舌になって、楽しそうにしていた。
琴美の要望通り、りんご飴に唐揚げに焼きそばを買って、俺たちは神社の境内に向かった。そこにもたくさんの人がいて、花火を見る場所を陣取っているようだった。俺たちも空いているところに座って、花火が上がるのをご飯を食べながら待つことにした。
「花火そろそろ始まるね~」
「ねえねえ、知ってるこの神社の花火の伝説」
「何それ~」
後ろに座っていた女性二人の話し声が聞こえてきた。
「実はね、この花火を……」
ヒュー。ドン。
綺麗な花火が夜空に上がった。そのせいで後ろの二人の女性の声はかき消されてしまった。
「お、始まったみたいだな」
「そうだね」
花火が次々と上がる。赤、青、黄色、それにいろんな形をした花火たち。
俺も琴美もその花火を静かに見上げていた。
ふと、後ろの二人が話していたことが気になった。この花火を、の後にはどんな言葉が続くのだろうか。もしかしたら、ここの花火には何か言い伝えみたいなものでもあるのだろうか。考えても何も思い浮かばなかった。
俺はチラッと隣に座っている琴美のことを見た。琴美は真剣に花火を見上げていた。その横顔は花火よりも美しかった。そう思って、琴美のことをしばらく見つめていたら、琴美がこっちを見て目が合った。俺の体温は一気に上昇した。
「どうしたの?」
「綺麗だなと思って」
「え……」
「あ、いや。花火がな」
「そ、そうだね」
俺は恥ずかしくなって琴美から顔をそらして花火を見上げた。
「ここの神社の花火を一緒に見た男女はね。結ばれるんだって」
「……」
後ろの二人が言っていたのはそのことか、と俺は検討違いのことを思った。
俺は、その言葉をどう受け止めればいいのだろうか。琴美はどんな気持ちでそれを言ったのだろうか。
そのあと、二人は花火が終わるまで話をしなかった。
ただただ、夜空に打ち上げられた花火を静かに眺めていた。
「終わったね」
「そうだな」
「帰ろうか……」
琴美は立ち上がっておしりについた土を手で払った。俺も同じようにした。
神社を後にして着物屋さんに浴衣を返して、俺たちは帰路を歩いていた。
「……」
「……」
何も会話がないまま、琴美の家に到着してしまった。
「送ってくれてありがと」
「どういたしまして」
琴美がなかなか家に入ろうとしなかった。
「もう無理! 我慢できない! この気持ちを抑えるなんてもう無理~!」
「ちょ、どうしたんだ。ちょっと声抑えて」
「私、蒼月君のことが好きーーーーーーー!」
琴美はそう叫ぶと逃げるように家の中に入っていた。
俺はというと、唖然としてその場に立ち尽くしていた。今のは、聞き間違いじゃなければ、琴美は俺に告白をしてということだような。当の本人は家の中に入ってしまって確かめることができなかった。
それから五日間。琴美が家にやってくることはなかった。
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