第28話 超絶美少女と浴衣選び
葵が家にやってきた翌週、俺と琴美は夏祭りに行くことになっていた。
「明日、夏祭りがあるんだって」
「どこであるんだ?」
琴美が言ったの俺の家の近くにある神社だった。
「行こうよ」
「いいよ」
「なんか、素直だね」
「そうか?」
まあ、素直というより、琴美との時間を大切にしようと思うようになったというのが正しい。この関係はいつ終わるか分からないのだ。1分でも長くこの時間が続くように俺は琴美が喜んでくれることなら何でもしようと思った。
そう思ったのは、たぶん、俺は琴美のことが好きだからだ。
「じゃあ、決まりだね。楽しみだな〜」
「そうだな」
「蒼月君は浴衣着る?」
「浴衣か〜。持ってないんだよな〜」
「私も持ってないんだよね〜。たしか、この近くに浴衣を借りれるところがあるって聞いたから、そこに行ってみない?」
「そんなところがあるのか」
琴美が提案してきたレンタル浴衣のお店はスマホで検索してみると意外と近くにあった。
なので、昼食を食べた後に行ってみようということになった。
「ここがそうみたいだね」
到着したお店はいかにも老舗といった感じの着物屋さんだった。
「本当にレンタルなんかやってるのか?」
「まあ、入ってみようよ」
琴美に促されるように入ってみると、五十代くらいの着物を綺麗に着こなした女性が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。本日はどういった御用ですか?」
「えっと、浴衣を借りたいんですけど」
「レンタルですね。こちらへお越しください」
その女性に案内されるがままに俺たちはお店の奥に入っていった。そこにはたくさんの着物や浴衣が並んでいて、試着室できるスペースもあった。
「この中から好きなものをお選びください」
「ありがとうございます」
「決まりましたら、お声掛けください」
そう言って、女性は俺たちに気を利かせて出て行った。
「すごいね」
琴美はそのたくさんの浴衣を見てテンションが上がっているようだった。
実は俺も内心嬉しかったりする。浴衣を着るのは初めての試みだった。
「こんなにたくさんあったら迷っちゃうね」
「そうだな。まあ、まだ祭りまでは時間あるしゆっくり選べばいいだろ」
「そうだね。蒼月君は浴衣着たことある?」
「ないよ。だから、実は楽しみだったりする」
「私も着たことことないから楽しみ」
二人でどんな浴衣を着ようかと選んでいる時間は楽しかった。琴美はどれにしようかと真剣に悩んでいた。俺は早々に黒色の甚平に決めて、琴美の浴衣選びに付き合っていた。
二人とも浴衣初心者ということもあって、最初にさっきの女性に浴衣の着方をレクチャーしてもらった。帯の結び方が難しくて俺は苦戦していた。
「もう、こうやってやるんだよ」
器用な琴美はすぐに帯の結び方をマスターして、俺のやつを結んでくれた。
なんかこれって……。熟年夫婦みたい。
そんなことを思っていたら、急に琴美が帯をきつく締めた。
「く、苦しい……」
「変なこと考えてたでしょ」
「考えてないって」
「じゃあ、なんで顔がそんなににやけてるの」
「それは……」
まさか、熟年夫婦みたいなんて言えるわけないよな。
「なんか、いいなて思ってさ」
「なにそれ」
琴美は俺の帯を緩めてクスクスと笑った。
今度はちょうどいい締め付けで帯を結んでくれた。
「ありがと」
「どういたしまして」
「浴衣まだ決まらないのか?」
「うん。可愛いのがたくさんありすぎて選べない」
「そっか」
「蒼月君が選んでよ。悩んでる浴衣持ってくるから」
「いいよ」
琴美は浴衣を三着持ってきて俺の前に並べた。
赤色と黒色と白色の浴衣だった。赤色のやつには黄色のバラが、黒色のやつにはピンクのバラが、白色のやつには赤いバラがそれぞれ描かれていた。琴美の言う通りどれも可愛かった。どれを着ても琴美には似合うんだろうなと思った。
「蒼月君はどれが好き?」
「そうだなー。どれを着ても似合うと思うけどな」
「もう、真剣に考えてよ」
「真剣だぞ。てか、来年も再来年も着ればいいだろ。別にこれが最後ってわけじゃないんだし」
「え……」
琴美がきょとんとした目でこっちを見ていた。
なんか変なこと言ったか。正直俺もこの三つの中から一つを選ぶのは難しかった。
「それって……。ううん、何でもない」
「ん。どうした?」
「蒼月君ってさらっと凄いこと言うよね」
「何のことだ?」
「本人は自覚ないし」
琴美は頬を赤くして俺から顔をそらした。
結局、琴美は白色の浴衣に決めたらしい。今、試着室に入って着替えをしているところだった。
「どうかな?」
「うん。よく似合ってるよ」
「ありがと」
試着室から出てきた琴美はより一層美人に見えた。白色の浴衣は思った通り、よく似合っていた。髪の毛も浴衣に合わせてセットされている。真っ黒な髪の間から見える白い首筋は白色の浴衣にも負けていないくらい白かった。
思わず、見とれていたら琴美に肩を叩かれた。
「もう、そんなに、見つめないで、恥ずかしいから……」
「ごめん。あまりにもよく似合ってたから」
「まあ、蒼月君に見られるのはうれしいけど……」
琴美はボソッとそう言った。
俺は抱きしめたい衝動にかられたが我慢した。俺たちはまだそんな関係じゃないし、抱きついたらせっかく綺麗に着こなされた浴衣が崩れてしまうと思った。
「そろそろ行くか」
「うん。そうだ、お金払わないと」
「ああ、それはいいよ」
「え、どういうこと?」
「まあ、いいから。それより、早くお祭りに行こう」
戸惑う琴美の手を引いて俺たちは祭り会場の神社に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます