第26話 超絶美少女と蒼月の母親

 俺が家に着く頃には、お昼になろうとしていた。遅くなってしまったな。家に着く直前で、俺は琴美に連絡を入れていなかったことを思い出した。もしかしたら、家の前で待っているかもしれない。俺は急いで家に帰った。


「開いてる・・・・・・」


 家の前に立ってドアノブに手をかけると、鍵が開いていた。

 俺はたしかに鍵をして家を出た。鍵もポケットに入っている。合鍵は家の中だし、他に鍵を持っている人なんてこのマンションのオーナーくらいだ。

 もしかして、泥棒か。俺は慎重に家の扉を開けてそっと中に入った。

 すると、中から楽しげな声が聞こえてきた。しかも、2人。そして、俺はどっちの声も知っている。

 まさか・・・・・・。俺はリビングに入った。


「あら、蒼月、おかえり」

「あ、蒼月君、おかえり」


 やっぱりか。俺の予想通りの二人がソファーに座っていた。


「あのなぁ、息子の家に勝手に入るなよ。てか、どうやって入ったんだ」

「それは、秘密よ」

 

 葵は俺に向かってウインクをした。

 俺の母親の佐伯葵はこういう人だ。昔から予測のつかない行動をすることの多い人だった。いきなり、ふらっと1ヶ月いなくなったり、帰ってきたと思ったら、肌が真っ黒になっていたり。とにかく、破天荒な母親だった。


「さて、蒼月。説明してもらいましょうか?」


 葵がニヤッと笑っている。息子の俺をからかうときによくやる顔だ。この顔にどれだけ、迷惑をかけられたことか。そして、この顔をしている時の葵はからはどう頑張っても逃げられないということも知っている。まあ、もうせ琴美から洗いざらい聞いてるんだろうけどな。

 俺は琴美をチラッと見た。その顔は困っているというより、楽しげな表情だった。


「あなたの家の前で待ってたのよ。この子。琴美ちゃんとどういう関係なのかしら?」

「別に、ただの・・・・・・」

「ただの?」


 俺にとって琴美は・・・・・・。どう言えばいいのだろうか。その後に続く言葉を俺は分からなかった。友達というには少し違う気がするし、かといって恋人かと言われればそうではないだろうし。

 

「友達かな・・・・・・」


 俺はそう言葉を濁した。

 琴美の顔を見てみれば、なんだか複雑そうな、悲しそうな顔をしていた。


「ふ〜ん。そうなのね。てっきり私は蒼月の彼女かと思ったわ」


 葵はさらっと爆弾発言をした。

 その爆弾は2人の間で爆発してお互いに顔を真っ赤にしていた。その様子を見た葵はニヤニヤと笑っている。


「で、なんで来たんだよ」


 俺は話を変えたくてそう言った。


「夏休みの間に行くって言ったでしょ。だから、来たの」

「そういえば、そんなこと言ってたな」

「言ってたなじゃないわよ。全く、親をほっといて彼女といちゃついてるなんて」

「ば、そんなんじゃないって」

「うそうそ、冗談よ」


 口ではそう言ってるけど葵の顔はずっとニヤニヤしていた。からかいやがって。

 琴美は何も言わずにただただ顔を赤くして俯いていた。


「さて、2人をからかうのはこのくらいにして、ご飯でも作りましょうかね」

「あ、私も手伝いますよ」

「そう? じゃあ、お願いしようかな」


 葵は立ち上がってキッチンに向かった。その後を追うように琴美もキッチンに向かっていった。俺は、誰もいなくなったソファーに座る。

 2人は楽しそうに料理を作っていた。まるで、親子みたいだった。

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