第25話 英彦と買い物

その日、俺は琴美に連絡を入れずに英彦の買い物に付き合ったことを後悔することもなった。


昨日の深夜に英彦がいきなり電話をしてきて、明日買い物に付き合ってほしいと言ってきた。だから、俺は今こうして英彦に指定されたショッピングモールで英彦が来るのを待っている。

 待ち合わせ時刻から5分が過ぎていた。英彦が時間に遅れるのはいつものことなので、あまり気にしない。


「遅れちまった。悪いな」

「大丈夫だ。お前が遅れてくるのはいつものことだからな」

「そうだな。蒼月、今日はありがとな」


 英彦は遅れたことを悪びれる様子もなく、俺にお礼を言った。英彦がこういう性格なのを知っているから特にムカついたりはしない。


「ああ、でも次からはもう少し早く連絡をくれよ」

「悪かったよ。急だったもんでな」

「で、俺はなんでこんなところに呼び出されたんだ」


 ここは、地元でも一、ニを争う大きなショッピングモールだ。中にはいろんなお店が入っていて、若者からお年寄りまで幅広い年齢のお客が訪れる。俺たちはこのショッピングモールのことを『パープル』と呼んでいる。なんで、そんな呼び名なのかは知らない。いつの間にかそう呼ぶようになっていた。


「実は、明日、記念日なんだよ。アリスと付き合い始めて3年目の」

「そういうことね。でも、俺なんかじゃ力になれないと思うぞ」

「まあ、一緒に見て回ってくれればいいさ。1人だとつまらないからな」


 記念日ね。英彦がそういうのを覚えているのは意外だった。もっと、そういことには適当なやつかと思っていたが、意外としっかりしているらしい。

  

「じゃあ、行くか」

「了解」


 2人でパープルの中に入っていく。

 夏やすということもあって、中には子供連れの親子がたくさんいた。いつか、俺にも子供ができる日が来るのだろうか。

 そんなことを思いながら英彦と一緒にいろんなお店を回った。


「だいたいの目星はつけてるのか?」

「まあ、一応な」


 英彦のその言葉の通り、次に向かった店で時間を使っていた。その店は、アクセサリーショップだった。英彦はネックレスを見ていた。

 俺は、英彦を待っている間、指輪を見ていた。


「お客様、指輪をお探しですか?」

「あ、えっと・・・・・・」


 突然、店員さんに声をかけられて、驚いてしまった。


「いえ、友達を待ってまして」

「そうでしたか。あまりに真剣にご覧になっているので、大切な人へのプレゼントを選んでいらっしゃるのかと思いました。ごゆっくりどうぞ」


 店員さんは素敵な笑顔を残して、別のお客のところへ行った。

 大切な人・・・・・・。そう言われた瞬間に、なぜか琴美の顔が思い浮かんだ。


「大切な人、ね・・・・・・」

「どうしたんだ、ぼーっとして」

「ああ、いや、なんでもない。それより、いいのはあったか?」

「おう、バッチリだ」


 英彦は手に持っていた袋を見せつけるように、顔の横に持ち上げた。その時の顔が幸せいっぱいで、英彦がアリスのことを大切に思っているのだとわかった。


「よかったな」

「付き合ってくれて、ありがとな。帰るか」

「そうだな。俺も七瀬さんがそろそろ家に来るはずだから」

「お前、七瀬さんのこと大切にしろよ」


 英彦はニヤニヤと笑って肘で横腹を突いてきた。そんなこと、言われなくても分かってる。


「早く、付き合ってしまえばいいのに」

「は、俺たちはそんなんじゃねぇよ」

「蒼月よ。七瀬さんを悲しませるなよ。七瀬さんが悲しんだらアリスも悲しんでしまうからな」

「分かってるよ・・・・・・」


 俺にとって、琴美はどういう存在なんだろうか。琴美は俺のことどう思っているのだろうか。

 帰り道に、ずっとそのことを考えていた。

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