第19話 超絶美少女と夏休み前日

 中間テストが終わって、今日は終業式。一年の前期が今日で終わる。 

 明日から、夏休みに入るということで、クラスメイト達はウキウキとしているようだった。


「明日から夏休みだな。蒼月はどうするんだ?」

「特に予定はないな」

「女神様とどっか行かないのか?」

「行かないと思うぞ。たぶん……」

 

 実際、そんな話は琴美と一度もしなかった。これからするかもしれないけど。

 琴美はまだ、教室に来ていなかった。いつもなら、もう来てるんだけどな。


「そういう英彦はどうなんだ?」

「まあ、それなりに行くぞ」

「それは、よかったな」

「俺たちは仲いいからな」


 英彦は豪快に笑った。

 夏休みか……。夏休みって毎日休みなんだよな。琴美はいつも土日にご飯を作りに来てくれているけど、それはどうなるのだろうか。さすがに、今まで通りだよな。


「蒼月君、おはよう」

「おはよう」

 

 琴美が後ろから声をかけてきた。

 なんかいつもと違う気がする。気のせいか。


「なんの話をしてたの?」

「ん、夏休みのことだ」

「あ~。そういえば明日から夏休みだね」


 琴美はそれだけ言い残すと、自分の席に戻っていった。

 ああ、今日は、髪の毛を巻いてるのか。それでいつもと、違う気がしたんだな。

 琴美の後姿を見て、気が付いた。


「お前たち喧嘩でもしたのか?」

「ん? してないけど」

「そうか」

「どうしたんだ?」

「いや、いつもと違う気がしただけだ」


 なんでもない、と英彦は言い残して自分の席に戻っていった。

 俺はそんな英彦のことを不思議な顔をして見ていた。


 放課後になって、みんながぞろぞろと教室から出ていく中、琴美が俺の席までやってきた。


「……蒼月君。一緒に帰らない?」

「ん、いいよ」


 琴美はなぜだか緊張した面持ちだった。

 どうしたのだろう。一緒に帰るなんていつものことなのに。


「じゃあ、帰るか」

「……うん」


 隣を歩く琴美の緊張がこっちまで伝わってきた。

 一体何に緊張しているのだろうか。

 それにしても、今日の琴美は本当に大人っぽいな。


「……あの、蒼月君」

「ん、なんだ?」

「夏休みなんだけど……。暇?」

「ああ、暇だな」


 もちろん暇だ。何しろ、一人身だからな。

 毎日勉強をするつもりだった。後は、琴美にオススメしてもらった本を読むつもりだ。そういえば、親が来るって言ってたな。


「家、行ってもいい?」

「土日にってことか? もちろんいいぞ」

「違う……。毎日」

「へっ?」


 予想外の言葉が琴美から出たので、思わず変な声が出てしまった。

 今、琴美は毎日って言ったか。聞き間違えじゃなくて。

 それに琴美の顔は真っ赤に染まっていた。

 

「それは、どういうことだ?」

「だから、毎日ご飯作りに行ってあげるって言ってるの!」

「なんで、命令口調なんだよ。嬉しいけど」

「じゃあ、行ってもいいの?」

「まあ、来てくれるなら」


 琴美はやったーっと飛び跳ねた。

 ほんとに、感情が出やすいやつだな。まあ、俺も人のことを言えないだろうけど。

 俺は、自分でも分かるくらい笑顔だった。


「じゃあ、明日からよろしくね」

「こちらこそ、よろしくな。そうだ。今日の髪型よく似合ってるぞ」

「え、気づいてくれてたんだ」

「まあな」


 俺は照れ隠しで、琴美から顔をそらした。ほらな、分かりやすいだろ。

 まあ、琴美も同じように顔をそらしてるんだけどな。

 そんなこんなで、琴美が明日からもご飯を作りに来てくれるらしい。俺は自分の顔を見られないように少し前を歩いた。

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