第12話 超絶美少女と休日(焼きそば)

 お昼過ぎに琴美はやってきた。

 いつも十一時頃に琴美はやってくる。そして一緒にお昼ご飯を食べて三時頃には帰っていく。


 今日も、琴美は両手にパンパンに膨らんだ袋を持っていた。


「おはよう」

「蒼月君、おはよう」

 

 梅雨がすっかりと明けて、来週からテスト期間に入る。

 今日もいい天気だった。

 琴美の今日の服装は、薄手の白いパーカー、花柄のスカート、この前も被ってた黒のベレー帽と、とても可愛らしい服装だった。


「ん、荷物持つよ」

「ありがと」


 琴美から荷物を受け取ってキッチンに運んだ。靴を脱いで部屋に入ってきた琴美は洗面台で手洗いうがいをしてからリビングにやってきてソファーに座った。


「勉強してたの?」

「まあな、来週にはテストだしな」

「そういえば、そうだね」

「余裕そうだな」

「一応ちゃんと勉強してるからね」

「そうなのか」


 まだ、テストを一度も受けてないから、琴美がどの程度のレベルなのかは知らないが、俺が分からない問題をさらっと教えてくれたりするから、頭がいいんだろうなということはなんとなく分かる。

 俺の今回のテストの目標はもちろん十位以内を取ることだ。高校に入って一回目のテストで実家に戻されるのだけは避けたかった。


「ねぇ、ねぇ、蒼月君、勝負しない?」

「……勝負?」

「そう、勝負! 中間テストでどっちがいい点を取れるか」


 よほど自信があるのか琴美がそう提案してきた。


「それで勝った方が知りたいことを一つ知れる権利を得るってのはどう?」

「知りたいことを知れるね」

「面白そうじゃない? もちろん言いたくないことは言わなくてもいいよ」

「そうだな。まあ、やってもいいぞ」

 

 琴美がどれだけ頭がいいのか知らないけど、もちろん、負けるつもりはない。俺はこう見えても負けず嫌いだからな。

 もしも、俺が勝ったら何を聞いてやろうか……。

 そういえば、琴美の誕生日っていつなんだろう。

 ふと、そんなことを俺は思った。


「じゃあ、決まりね」

「負けないからな」

「私だって、負けないもんね」

 

 琴美はご飯作ってくるね、と言ってキッチンへ向かった。

 もう、そんな時間か。気が付けば、琴美が家に来てから一時間が過ぎていた。

 それにしても、すっかりと、琴美は俺の家のキッチンを使いこなしてるな。キッチンが喜んでくれるというものだ。俺は普段使わないからな。

 土日だけ、ご飯を作ってもらうという約束をしてから琴美がこの家にご飯を作りに来てくれるのは今日で四回目だった。

 琴美の料理はどこで覚えたのかというほど、美味しいものばかりだった。

 それにしても、随分と仲良くなったものだな。入学式の時は絶対に関わらないと思っていたのにな。今では、学校では普通に話すし、冗談も言い合うような関係だ。


「不思議なもんだな」

「ん? 何が?」

「こうやって七瀬さんと一緒にいることかな」

「えー。何それ。私は全然不思議じゃなよ」


 琴美はキッチン越しに笑顔をこちらに向けていた。

 その笑顔を見た瞬間、俺の頭にふとあることが浮かんだ。

 これって、まるで……。

 だけど、すぐに俺はその浮かんできたことを消すように首を振った。俺たちは決してそんな関係じゃない。

 ご飯を一緒に食べるだけ、それだけの関係だ。


「ほら、そんなことより、ご飯できたよ」

「あ、うん」


 俺は食器棚から今日のお昼ご飯の焼きそばが入りそうなお皿を出した。

 その皿に琴美が焼きそばをフライパンから移す。

 それを俺がテーブルまで持っていく。

 そのあと、琴美が箸を、俺がお茶をそれぞれテーブルまで運んで隣同士に座った。


「じゃあ、食べよ」

「いつもありがとな」

「……え、急にどうしたの?」


 琴美はビックリした顔でこっちを見た。少しだけ頬が赤い。照れてる証拠だ。

 

「いや、ただ、言いたくなっただけだ。食べよう」

「え、うん。そうだね」

 

 いつも美味しいご飯を作ってくれてるからな。たまには素直に感謝を言うのもいいだろう。俺も少しだけ照れくさかったけど、琴美の満面の笑顔が見れるなら俺の恥なんて安いものだ。

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