第7話 超絶美少女と看病(たまごがゆ)


 俺がこうなった原因は分かっている。

 この前、雨を浴びてしまったからだ。さすがにあの雨の中、二十分も立っていれば風邪もひく。だから、俺は学校を休んでベットで横になっていた。梅雨はもう少し続きそうだった。


 今日は一日安静にしておこう。スマホを確認すると、時刻は八時だった。

 俺は静かに目を瞑った。すぐに、深い眠りについた。


 ピンポーン。

 呼び鈴の音で俺は目を覚ました。

 枕元に置いてあったスマホを手に取って見てみると、時刻は十六時だった。どうやら、八時間ぐっすり眠っていたらしい。

 体をゆっくりと起こしてみる。まだ少しだるさを感じた。

 俺はサイドテーブルに置いている眼鏡をかけて、ゆったりとした足取りで玄関に向かった。


「……七瀬さん」

「……蒼月君、大丈夫?」

 

 玄関の扉を開けてみれば、心配そうな顔をした制服姿の琴美が立っていた。片手にはコンビニ袋をもう片方の手には傘を持っている。どうやら、この雨の中、学校帰りにお見舞いに来てくれたらしい。

 

「……ごめん。私のせいだよね」

「ううん、違う」

「……でも」

「僕の体調管理不足。いつも不摂生な食事をしてるからね」

 

 俺は琴美に心配させまいと冗談めかして言った。

 普段、冗談なんてあまり言わない俺がそんなことを言ったのが、逆効果だったのか琴美は俺のことをますます心配しているようだった。


「風邪、うつしても悪いし、もう帰ってもらっていい……」

「せめて、お粥作らせてくれない? どうせ、ご飯食べてないんでしょ」

「……でも」

「いいから、蒼月君は寝てて、お粥出来たら起こしてあげるから」

 

 ああ、この瞳はこっちが何を言っても聞かないやつだ。琴美の瞳には絶対に帰らないという決意の色が浮かんでいた。

 俺は仕方なく、琴美を家の中に入れることにした。琴美をキッチンに案内すると、倒れるように俺はベットに寝ころんだ。


 どのくらい眠っていただろうか。

 目を覚ますと、いい匂いがした。


「……え」

 

 その匂いの正体は琴美だった。琴美の顔が俺の顔のすぐ近くにあった。眠っているらしい。

 どうやら、ずっと看病してくれていたようだ。俺のおでこには濡れたタオルが置いてあった。

 それにしても、なんて無防備なんだろうか。

 あのくりくりとした大きな瞳は閉じられていて、すやすやと寝息をかいて眠っている。その顔はとても穏やかだった。ほんと、可愛いよな。

 俺は琴美の頭をそっと撫でた。すると、その瞬間、大きな瞳が開いた。ほんのりと頬を赤くした琴美は寝ぼけているようで、俺が頭を撫でたことには気づいていないようだった。


「ん~。あれ、蒼月君、目を覚ましたんだ」

「う、うん」

「元気になった?」

「うん、少し楽になったよ」

「……よかった。そうだ、お粥食べる?」


 俺が頷いたので琴美はキッチンに向かった。

 危なかった。頭を撫でたのがバレるところだった。琴美がいなくなると俺はホッと一息ついた。

 琴美が小さな鍋を持ってきて、テーブルの上に乗せた。その鍋の蓋を外すと、美味しそうな卵粥が姿を見せた。


「食べさせてあげよっか?」

「……え、それはお断りします」

「何~。照れてるの?」


 琴美がニヤニヤと笑っている。どうやら俺のことをからかっているらしい。それなら、お返しにと、俺はいつもからかってくる琴美をからかってやろうとぼんやりとした頭で思った。


「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「……え」

「ダメなの?」

「ダ、ダメじゃないけど」


 仕返しとばかりに俺はその提案を受け入れた。どうやら、予想外だったらしく、琴美は顔を真っ赤にして、もう、蒼月君のバカと頬を膨らませて呟いた。

 琴美は恥ずかしがりながらもスプーンでお粥を食べさせてくれた。俺も少しだけ頬を赤らめていた。

どうやらこれは、風邪のせいではないらしい。


「美味しい?」

「うん。すごく美味しいよ」


 俺は小さな声でありがと、と言った。その言葉が琴美の耳に届いたのか、琴美は目を細めて微笑んだ。

 その後も琴美は俺にお粥を食べさせてくれた。

 そのむず痒い時間に二人が幸せを感じていたのは言うまでもなかった。

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