志貴

ファミリーレストラン・・縮めて「ファミレス」

基本は24時間経営で家族で食事を楽しめる快適な空間だ・・・


と、説明を受けた勇者は、まずは自動で開く扉に驚き

中々店に入ろうとはしなかった・・・。


「これは自動ドア、自動で扉が開くんだ。

結局この「触れて下さい」って書いてある所を触らないと

開かないんだから、別に自動じゃなくてもいいのにね!はは!」


「そういう事じゃねぇ!早く勇者を連れて入れや魔王様!

店員に怪しまれるだろ!」


シキが言う頃には、もう店員は十分に3人の来客を怪しんでいた。

『チンピラ、ヤクザ・・怯える子供・・・・=誘拐』

店員は思わずシフト表を確認する。

店長の出社は10時・・確認を取るのは後にして、取りあえず警察に・・


店員が算段をたてていると、チンピラ・・・シキが

「あ、俺たち怪しい者じゃないんで・・、警察とか呼んだらころ・・

あのガキは、あのデカイオヤジの子供なんで」

「お、オヤジ・・・くくく組長・・・・・さんって・・・事ですか?!」


店員は怯える、シキは頭をかかえる・・・魔王は勇者の気が済むまで

自動ドアの開閉を繰り返した。


「・・はー・・・」


勇者が安堵の吐息を漏らす・・、入り口には戸惑ったが店の中は人間しか居ない。

しかも温かくて、いい香りがして落ち着く。


「さ、三名様ですね、おタバコは」「吸わねぇ」

「ではこちらへどうぞ・・・」


あからさまに緊張している店員に案内されたのは、広い机とそれを囲むソファ。


「うわぁ!広いね!ここ、僕たちが座っていいの?」

「いいから、とにかく座れ!」

「うわーい、僕は一番奥の席!ここに座ると外が良く見えるんだー」

「そ、そうなの??外?僕も観たい!」


魔王は勇者と共に窓際に席に着くと、同じような恰好で外を眺める。


「・・・さっきまであんなに大きな音がしてたのに・・聞こえなくなった」

「それはこのガラスのおかげさ」


魔王が透明な空間を指さす。

勇者は不思議そうにそこに手を伸ばすと、透明だと思っていた空間に何かが

ある事に気づいた。

指先に当たったガラスは「コツン」と音を立てて指先を阻む・・


「普通の硝子じゃないよ?とっても厚いんだ、だからある程度の音を遮断し・・」

魔王は説明しながら勇者のダウンを脱がせた。

「ある一定の温度を保つことができる・・暑いだろ?手袋も外していいよ?」

「・・う、うん・・!・・ガラス・・かぁ・・・、普通のお店のガラスはすぐに破れちゃうもんね

これが異世界かぁ・・」


次に勇者の目に留まったのはメニュー表だ。


「・・これ・・・、って、本?にしては・・薄いけど・・、うわー・・綺麗な絵が沢山だね!」

「これは、このお店で出すメニュー表さ、絵じゃなくて写真なんだ、注文するとこれと

同じものが出てくるよ?」


魔王がメニューの話をし出した瞬間、シキは店員を呼び出すボタンを押す。


「モーニングセットAで、ライス。飲み物はホットコーヒーで、

あと味噌汁ひとつと、お子様セットひとつドリンクバーつきで」

「は、はいかしこまりました・・ご注文繰り替えし致します・・モー」

「その味噌汁って僕のメニューなの?僕もドリンクバーがいいよぅ!」


シキは店員を見る・・店員にしてみたら睨まれていると思うような眼力で・・

「モーニングセットA、ライスとホットコーヒーで、単品でお味噌汁と、お子様ドリンクバー

セットで、かしこまりました!ドリンクバーはあちらにございますので

お好きなものをどうぞ!!少々お待ちください!!!」


店員は逃げ出した・・・


「ドリンクバーって?」


勇者が尋ねる。


「使い方教えてやるから、でもあんまりはしゃぐなよ?」

「ねぇシキ君・・魔王が・・泣いてる・・」

「あれは無視で構わねぇ・・あいつ、前回こっちにきた時ドリンクバーに興奮しすぎて

機械ぶっ壊してってからな・・俺がなおしたんだけど・・」

「そ、そんなに、楽しいものなの??」


シキは勇者をドリンクバーに案内しながら「そう、楽しいもんでもないけどな」と

一応釘を刺しておいた。


「温かいのと冷たいの、今はどっちが飲みたい?」

「・・ちょっと暑いから、冷たいのがいいかな・・」

「じゃあ、その下から、そうそれ・・グラスをとっ・・・」

「!!大変だよシキ君!!!・・これって・・・氷??作るのがとても大変なんだよ?

・・こんなに沢山の・・・・氷・・、これ!持って帰ろうよ!!皆喜ぶよ!!」


シキは「そう来るかぁ~」と呟く・・・・・


「氷は俺が作れる、つか魔王様でも作れるから安心して使いな・・」

「そ・・そうなの・・シキ君って・・」

「俺への賛辞はまた後でな・・、で、氷を掬ってグラスに入れたら、後は好きな飲み物の

ボタンを押す」

「・・・えと・・」


勇者はその機械の前で迷う。


「リンゴやオレンジは城でも出てくるだろうから、ここは炭酸一択だな!」

「たん・・さん・・?」

「ここ、押してみ?」

「・・う、うん・・・」


勇者は思い切って言われたボタンを押す。

すると琥珀色の液体がグラスに流れ込み・・・暫くすると機械は自動でとまった。


「・・中に誰か」「居ねぇから、で、それをもって席に戻る、っとストローも忘れずにな」

「泡が沢山出てるよ?これ毒?」「毒じゃねぇ」


席に戻り・・味噌汁を前に悲し気な魔王に「・・ごめんね」と言いながら

勇者はストローを口に咥えてコップの中身を一口飲んだ。


「・・・!!!!!」

「美味いかどうかは別にして・・、初めての炭酸はどうだ?」

「・・・・んー・・・・・!!!!!!」


勇者は言葉にならない程感動したらしい、すぐにコップの中身を飲み干してしまった。


「・・美味しかった・・・」

「好きなだけ飲んでいいんだぜ?さっきの機械の所でおかわり出来るからな」

「え!・・でもこれって・・高価なものじゃ・・」

「金は一律、氷もタダみてーなもんだ、機械の使い方がわかったら」

「わかった!もう一回行ってくる!」


勇者はすぐにドリンクバーに向かった。


「はっ・・、やっぱガキはアレが好きだよなー」

「僕だって好きだよ・・色んな飲み物を混ぜて錬金する機械・・・欲しいよ・・」

「魔王の味覚はガバガバだから駄目だってんだよ!てめ、いい大人だろうが」

「まだ654歳だもん・・」


シキは無視を決めた。


「緑のしゅわしゅわと黒いしゅわしゅわが美味しい!」

と言っていた勇者の前に、アイスが運ばれてくる。


「・・これは?」

「バニラアイス」

「・・バニラって・・高価な香辛料の・・あのバニラ??アイスって??」

シキは笑いをこらえながら「いいから、その白いの喰って、緑のしゅわしゅわ飲んでみ?」

言われるままにアイスを口にした勇者の顔は、もうシキの想像通りで・・・

お子様セットについてきた小さなプリンを食べた勇者もシキの予想通りで・・

『俺にもガキが居たらこんな感じなのかな・・』と思う自分に気恥ずかしさを感じる。


「さっき朝ごはんを食べたのに、全部食べちゃった・・!」

「そっかそっか、そんだけ美味かったか、良かったな!」

「うん!凄いねシキ君!!」

「凄いのはシキ君じゃなくてお店だもん」

まだ拗ねている魔王・・シキは無視を決め込んだ。



「ふわー・・美味しかったし・・ここあったかいし・・少し眠くなっちゃった・・」

「あぁ、もういい時間だな・・、買い物から済ませるか、ほら!行くぞ!魔王!勇者!」

「今、魔王様って言わなかった・・」


シキは無視を決め込んだ。


ファミレスを出て、街を歩く頃には勇者も少しは落ちついて歩く。

周りには相変わらず「チンピラ、ヤクザ、誘拐された子供」にしか見えないのだろう

すれ違う人々は3人をチラチラと見ては過ぎて行く。

暫く歩くと信号に差し掛かった。

構わず歩き出そうとする勇者の腕を引くのは魔王だ。


「これは信号って言って、赤の時は渡れないんだよ?」

「・・・どうして?」

「どうしてって、車、走ってるでしょ?」

「・・・あれくらいなら避けて向こうに行けるよ?」

「う、うん・・、でもほら危ないから。そういう規則になってるんだ!」

「・・・・・・ふぅん・・・。」


納得が行かないのか走る車を眺める勇者。

「今の説明で良かったよね?僕間違ってないよね??」不安気な魔王。


「ルールは守らねえとな」シキの後押しに、勇者は「わかった」

と頷いた。


目的地のビルは高く、勇者はその外見を見て驚く。

ビルの中で動く人影にも「あんな高い所に人がいるよ!」と魔王の袖を

引っ張る。

「ここは本やDVDが売ってるお店で、7階まであるんだ。あのエスカレーターか

エレベーターを使って上に転移するんだよ?」


勇者はエスカレーターを見て「あれ?」と指さす。

「そうそう、あ」魔王が答える頃には、勇者は少し助走をつけてエスカレーターを

一気に飛び越えた。


「あ!」「バッ!そういう使い方じゃねーよ」


二人は周りに誰も居なかった事に安堵しつつ

慌てて勇者の後を追う。


「え?これ「動く階段」でしょ?魔王の城にもあったよ。乗ったら危ないんだ」

「これは危なくない階段だから、ね、大丈夫だから!」

「・・さっきは危ないから・・・って言った・・・」

「あれは横断歩道の話で・・あうあう・・・」


シキは溜息をついて勇者の目線に合わせて背を屈めると


「勇者は、この世界にくるのは今日が初めてだよな?」

「うん!」

「この世界にはこの世界のルールがある、それには従わないといけないのは

わかるか?」

「・・・・うん」

「おっしゃ、じゃあまずは、さっきの信号や、ファミレスの機械と同じように

色んな事教えるから、まずは俺と魔王のするように動くんだ。

いいな?

さっきのは、この店が開店直後で周りに人間が居なかったから騒ぎには

ならなかったが、人がいたら大騒ぎになってたし、誰かに怪我させてたかも

しれないんだぞ?」

「・・・うん・・・・」


シキはその頭をぽんぽんと撫でて「じゃ、行くか」と勇者の前を歩き出した。


「俺たちは雑誌を買ってくるから、魔王様は・・」

「うん!DVD見てくる!!」


魔王はふたりに手を振ってもう一階上のエスカレーターに飛び乗った。


「でぃーぶい・・」

「城に帰ったら観せてもらえると思うぜ?多分、真っ先にな」


シキは村人に頼まれた雑誌を次々と掴み取って歩く。

勇者はズラリと並んだ雑誌の表紙を見て歩いた。


「これは・・絵画の本なの?沢山あるね・・・」

「絵画・・じゃねーけど・・・、まぁ似たようなもんだ。

勇者も何か気に入ったものがあったら買っていいぜ?」

「え!いいの??」

「ま、雑誌より・・勇者にはあっちかな・・」


シキは10冊ほどの分厚い雑誌を持ち直し、「児童書」のコーナーに

向かう。


「こ、これ・・!」思わず大声になって、勇者は自分で自分の口を塞ぐ。

「どした?」

「・・・これ・・全部・・・本??凄く高価なんじゃ・・、でも・・

触れられる場所に・・こんなに・・・沢山・・見張りも居ない・・」


ハードカバーの児童小説の量に驚いたのか、勇者は不安そうにシキを

見上げる。


「気になる表紙があったら見てみろよ、これは全部売りモンで

そんなに値が張るもんじゃねーから」

「・・・・・・ほ、ほんと?貴族しか触ったらダメとかじゃ・・ないの?」

「大丈夫だって、ほら、これなんてどうだ」


シキが適当に選んで棚から取り出した本は

少年とドラゴンの冒険譚を描いた小説だった。


「ファンタジーの世界でファンタジー小説を読むのもあれだな・・。

でもこれ俺が子供の頃に結構人気だったシリーズなんだぜ?」


勇者はシキからその本を恐る恐る受け取る。

表紙はホログラム加工が施されていて、少し動かすときらきらと光る。


「・・・・!!」

「お、気に入ったか?」


勇者は無言で何度も頷いた。

『さっきの跳躍力とか・・・見せられると常人離れしてると思うが。

こういうトコはしっかりお子様なんだよなぁ・・・・』


「全7巻だな、全部買ってくか」

「え!そ、そんなに・・・」

「挿絵も多いし、字もデカイからすぐに読み終わるさ」

「・・・でも・・僕・・字は読めない・・」

「魔王様に読んで貰えばいいだろ、どうせあいつ毎日暇なんだから」

「・・・・・読んでくれるかな・・」

「読んであげるよ?」


いつの間にか買い物を終えた魔王が二人の後ろに立っていた。


「村の子供たちにも読み聞かせてやろう」


魔王は残りの6冊を掴んで、勇者からも1巻を受け取ろうとする。

だが、勇者は顔を上げない。


「バァッカ、魔王様、まずは勇者にだけ読んでやれや、

勇者が気に入った本なんだぞ?」

「え?そうなの?」

「ううん、別にそんなんじゃないよ。村の子供たちにもお土産だね!

魔王に読んでもらえるの楽しみだ!」


勇者は本を魔王に渡す。


「・・・僕・・。また何かやっちゃいましたか?」

項垂れる魔王に、シキは持っていた雑誌を渡す。

「勇者とレジ行って来いよ、きっと喜ぶから」

「!!本当かい??じゃあ、行こう!勇者」

「・・れ・・ジ?」


聞きなれない新しい言葉に勇者は思わずつられて

魔王の後ろについてレジに向かった。


「ここで、お姉さんが計算してくれるから」


本に機械をあてて値段を読み込む作業を、楽しそうに見ていた勇者は

魔王から2枚の紙を渡される。


「この紙幣で精算するんだよ?」

「・・うん・・・!」

「14880円になりますー」

「はい!」


勇者はカウンターに紙幣を出す。

レジのお姉さんは笑って受け取ってくれた。


「あ、袋は結構・・、カバーかけてもらえますか?」

「はい、かしこまりました」

「・・・カバー?本に?装備??」

「そう、勇者があの本がお気に入りのようだから、特別にね」


魔王に言われても何の事かわからなかった勇者だが

お姉さんが、あの綺麗な表紙の本をひとつひとつ紙で包んでいるのが

見えて魔王のいう「特別」を理解した。

勇者は、信じられないと言った顔で魔王を見上げる。


「帰るのが楽しみになったかい?」

「うん!」


勇者は大きく頷いた。


片手で溢れそうになる本を持ったまま、3人は次の階へ向かう。

「せっかくだから、エレベーター使おうぜ」


シキにエレベーターの操作を教えてもらい、その部屋に進むと

外の景色が一望出来て驚く勇者だったが・・

他に乗り込んでくる乗客も居なかった所で

魔王は大量の本を自分のコートの中に放り込む。

本はコートの中に消えてしまった。


「・・本・・」

「大丈夫、僕の服に転移の魔法を仕込んであるんだ。これで本でも

何でも、向こうの世界に転送できるんだ。」

「魔王!凄い!!」

「え?!それ程でも・・・あるけれどー・・・」

「魔王様、うぜ・・」

「え?シキ君??何か?僕に何か??」

「近づいて来んな!うぜってんだろ!」

「あはは!!」


勇者が笑うから、魔王とシキの小競り合いは一時休戦となった。


頼まれていた本やDVDを買い終えると、次は「街」を移動する

と言われ、駅に向かった。

轟音をたてて走る電車に最初は緊張していた勇者も

二人の言いつけを守り、暴走する事もなくおとなしくしていた。


「どこへ行っても人がいっぱいだね・・」

「そうだね、ここは特に首都圏・・お城みたいなものだから。

人や音には慣れて来たかい?」

「・・うん・・、多分・・」


電車の揺れにも慣れてきたのだろう勇者だが、電車がすれ違う音には

まだ慣れないようで、無意識に腰に手を置いては剣がない事に気付き

そっと息を吐いた。


「もっと慣れたら遊園地とか行きたいね」

「ゆうえんち・・?」

「遊び場なんだけど、今の勇者には刺激が強いかな?」


買い物や移動は続き、

勇者に出来るだけ色んなものを見せたい、食べさせたいと

張り切る魔王のおかげで

陽は沈みかけ、夜になろうとしていた。


最後に入った店は

「俺、さすがに疲れたっす・・飲んで帰りたい」というシキの意見に

「お!いいねぇ!一杯いきますか!」と魔王も乗り気で

居酒屋にやってきた。


「ここは酒場だよ、勇者は酒場には行った事ある?」

「うん、仲間を募る時とかに行くけど・・、お酒は飲んだ事ない・・」

「やっぱ酒場で仲間を募るんだな・・・」

「うん、掲示板にクエストが張ってあったり・・このお店には・・・」

「ねぇよ、あってもメニューくらいだな、あ、すみませーん」


シキが呼ぶと店員が元気にやって来た・・が、とりあえず魔王の見た目

が気になるようだ・・・・


「皆、魔王を見るね」

「おっかしいなぁー魅了の魔法なんか使ってないのになー」

「胡散臭いから見られてるっつーの」

「悪者のボスみたいだもんね、討伐出来るか確かめてるのかも」


勇者の真面目な一言にシキは堪らず笑いだす。


「所でよぅ・・」少し酔いの入ったシキが勇者を見る。

「いくら歳が13だからって、小さすぎやしねーか?お前・・」


身長の事を言われたのだと、勇者が気づくと代わりに魔王が

口を開いた。

「それは重複魔法を受けすぎたの副作用だね~、人間には

叡智を超えすぎたものが魔法らからねぇ、例え強化魔法を

重ねがけしても、副作用ってのが付きまとうんらよー・・

それを・・人間如きが一番の禁忌とされる蘇生魔法を

こんっな子供に何度もかけたら、そりゃ・・・副作用として

記憶も消えるよねぇ?ゆーしゃー」

「・・そうなんだぁ・・・・・僕には・・わからないけど・・」

「魔王の僕が使う魔法は、ちゃんとした魔法らから、

副作用らんて、らいんらけどー、あ、すみませんー

これと同じの3本お願いします。」


魔王が空けた熱燗のビンは、もうすぐ10本を超えそうだ。


「・・・らからね、副作用なの、これはハカセが教えてくれたんらけどね。

僕も、むかーし手に入れた人間の魔法の経典をみて、びっくりしたもんね。

荒いんらよ、術の質が。らから、副作用が生まれるんらよ。

らいたいね!シキ君!」

「んだよ・・俺に絡むなよめんどくせぇ・・」

「いや、シキ君、君は失礼だよ。自分がちょっと僕くらいの身長らからって

うちのゆうしゃを!上からめせんで、ころも扱いして!」

「いや、てめーも同じだろうが!」

「うちのゆうしゃは!にんげんに!奪われたの!そこはでりけーとらの!

12さいのころもが、たくさんのふかをかかえて、いきて、僕のところまれ来た!

それだけでも凄い事なの!たべものだって、この世界のころもとはちがうの!

成長がおそいのはえいようぶそくらの!これから、さいくろぷすくらい、こえるし。

よゆーでこえるし!」


シキは複雑そうな表情の勇者を見る。

「・・何か悪ぃ事きいちまったな・・すまん」

「ううん、僕も初めて聞いてびっくりしたけど・・、魔王と一緒にいたら魔王と

同じくらい大きくなるよ!サイクロプスは無理だけどね・・、頑張るよ!」


『これって・・・聞いてもだめだし・・、言っても駄目な事だったんじゃねーの?

魔王様・・・・』


シキの後悔は先に立たず・・・ただのゆで卵でも目を輝かせて食べてくれる

勇者の為にカツ丼を頼むしかなかった。



この店でも勇者は食べた事のない料理を堪能して、

シキも少し酔うくらいには飲んで

魔王は飲みすぎたようで、店を出ても頼りない足取りで歩き出す。


「何で魔王が酔うかねぇ・・」

「なんれかは、わかんないけろ、あまりのまらいから、なんか・・こう・・

まりょくのほうに?さよう・・するんらよねぇー・・らいひょうぶらんらけろ。

なんかこう、よった?かんじが、すきらんらよねー」

「魔王・・大丈夫?」


勇者が魔王の体を支えようとした時。


「あの、すみません」と声をかけられた。

二人組の男たちは同じ服を着て、言葉は柔らかいが

鋭い眼差しで魔王を見ていた。


「げ・・・職質かよ・・」シキが小声で呟く。


「お兄さん、ちょっと飲みすぎてるみたいだね?大丈夫?」


男たちはいつの間にか逃げ場を塞ぐように立ち位置を移動しながら

質問を続けた。


「居酒屋で飲み過ぎただけだよ、不審者でも何でもねーから・・」

「この子は?二人の兄弟かな?」


一人の男が勇者に尋ねる。

「・・・・・」

「そいつは、そこの男の息子だよ、ほら、行くぞ!」


シキは男と魔王の間に入り、勇者の手を引いて歩き出そうとする。


「へー?若いお父さんだね?僕、名前は?」

「・・・・・・・」


勇者はシキに視線を送る。シキは焦っているようだった。


「身分証とか持ってる?お父さん外国の方かな?」

「だから!何もねーって、見た目は怪しいけど普通の社会人だから」

「そうそう、ふつーのまおうーれすから。あやしくらいれすから・・・・」

「ははは、お父さん相当酔ってるねー。少し署で休んで・・・」


一人の男が胸元に下げた機械で何かを告げている。

もう一人の男は相変わらず優しい口調だが、肘を使い魔王からシキを離す。

「お兄さんもそう怒らないで・・身分証見せてくれればいいから」


『仕方ねーな・・・・「じじぃ」に偽装してもらった身分証使って、魔王様の魔法で

こいつらの記憶操作・・・』


シキの考えが少し遅れたのは酒のせいで、

「いけない!」と魔王が叫んだ時にはもう、


勇者は一人の男が身に着けていた短い棒状の武器を抜き取り

どこかに報告している機械を持つ手を打ち付けると、その機械を引き千切って

道路に落として踏みつけた。そして驚いている男のその首に棒を叩き付ける。

膝をついて蹲る男が何かを叫んだ。


「君!」ともう一人の男が動く前には、勇者は地を蹴り男の頭を確実に砕ける力で

腕を振り下ろした。


「時よ!!」魔王が叫ぶ。


周りの時が止まる。

「しまった・・・、酔ってる場合じゃなかったな。早めに記憶操作しないと・・・

周りの人たちも・・スマホの映像記録も・・すべ・・・」


時は止まり、魔王だけしか動けないこの空間で、勇者の足が・・・動いた。

ゆっくりだが、男の肩を蹴り身体を捻ると魔王を眼前に捉える。

その瞳の色は、「勇者」のものであった。


「ぁああああ!!!!」

「!!!僕の魔法の中で動くのか?!」


ひゅと風を切る音がして、魔王のサングラスが砕ける。

そして驚いた魔王の魔法が解除された一瞬。


「・・まお・・・」


勇者は驚いたように魔王の瞳を見ている。

そして走る車の上を飛び越え、更に駅の向こうへと跳んだ。


「僕は大丈夫だから!!」魔王が叫ぶ、二人組の男たちは何が起こったのか

把握できずにいた。


「魔王様!記憶操作!!」


シキが叫んで、魔王が腕を振る。

二人組の男たちも、何事かと足を止めたり、カメラを構えようとしていた人間たちも

まるで何も無かったかのように歩き出す。


「魔王様・・」シキは建物の影に魔王を引っ張りこむと

「勇者の所に転移できるか?」と尋ねた。

「勇者はあの線の電車の上に乗ったよ・・動き続けていると的が絞れない・・」

「あの線だな!わかった!俺が行く。俺から勇者に携帯で連絡すっから!

魔王様、あんたは先に「じじぃ」の所へ転移してくれ!」

「・・僕の・・せいだ・・・、」

「ああそうだよ!魔王様のせいだ!・・でも俺も咄嗟に動けなかった・・・

でも勇者は俺たちが「いつもの」職質を受けてる間、ずっとその様子を伺ってた!

俺たちが攻撃されるんじゃないかって身構えててんだ!!くそっ!!

気付くのが遅すぎた・・俺も!アンタもだ!!

だから俺が追いかける!魔王様はじじぃの店から出るな!動くなよ?!」


シキは魔王の胸倉を掴んで壁に叩き付けると走り出した。

『電車の上だと??高圧電線とか走ってんだぞ・・・そんなもんに触れたら

さすがにやべぇだろ・・くそが!!』


シキは携帯を取り出す。

相手は出ない・・・だが・・・

駅に入るとアナウンスが入り、計器の誤作動の確認で電車は止まっていた。


『勇者が屋根に乗ったからか?どっか近くで降りててくれると助かるんだが・・』


勇者は飛び乗った電車がすぐに停車しそうな事に気づき、電車から飛び降り、ホームを

飛び越え、フェンスも越えて走り抜けた。


走って走って・・・・やっと人気が無い所までくると・・

持っていた棒を背中に隠し、暗い道を歩き出した。


「・・・・・・・、また・・・、魔王に怪我させた・・」

『僕は大丈夫だから』背中で聞いた魔王の声を思い出す。


その時、初めて携帯が震えている事に気づき、恐る恐る携帯を耳に近づける。

『魔王だったらどうしよう・・僕・・・咄嗟に逃げて』

「・・しゃ、おい勇者!聞こえるか??」

「シキ君!!」


勇者は道路にしゃがみ込んだ。


「ごめんなさい・・僕・・・ごめんなさい・・」

『・・はぁ・・やっと繋がった・・・、大丈夫か?怪我とかしてねーか?』

「うん・・うん・・」

『泣くなって、魔王様ならピンピンしてっから』

「・・・うん・・・」

『・・・俺たちが・・攻撃されてるように見えたんだろ?』

「うん・・・っ・・」

『だから、助けようとしてくれたんだよな?』

「うん・・・」

『あれは完全に俺らの不注意だ、勇者は何も悪くねぇから・・・

もう、帰ろうぜ?』

「・・かえ・・りたいよぅ・・・」

『周りに誰かいるか?』


勇者は立ち上がり周りを確認する。

暗い道の裏側がほの明るい事に気づいた。

「誰も・・いない・・けど・・・」


恐る恐る道を歩いていくと、黒い服を着た人間たちが建物に出入りする

姿が見えた。


「黒い・・服の人たちがいる」

『黒・・、か。まぁいい、誰かにこの場所・・・出来れば住所を聞けるか?』

「・・聞いてみる・・・」


勇者はとぼとぼと歩き出した。

『黒服って・・店とか・・ヤバイ事務所じゃないといいけどな・・』

シキは携帯の向こうの様子を音で確かめる。

「あの」と小さい声がした。


「あの・・」男に声をかけると、男は「どうした??」と勇者の前に

膝をつく。

「泣いてんのか?どこかケガしてんのか?」

「ううん・・、あの、ここ・・どこ・・ですか?」

「迷子か!参ったな・・お、それ携帯か?誰かに繋がってんのか?」

「うん・・シキ君に・・」

「・・シキ・・・・・・・?オジさんが代わってもいいか?」


勇者は携帯を男に渡した。


『あ、すみません。そいつ俺の弟なんですけど、道に迷ったみたいで、

そこの住所教えて貰えますか?迎えに行くんで』

「・・・・・あ、ええ。ここは住吉駅のすぐ近くの・・葬儀場です・・。

セレモニー住吉っていう・・・」

『・・住吉・・・・・・・・ですか。わかりました。すみませんが弟に電話代わって

もらっても・・』

「あ・・・はい。」


男から携帯を受け取るとそれを耳に充てる。


「シキ君・・」

『・・場所はわかった、近くだからすぐ迎えに行ける。その辺で大人しく

待っててくれるか?』

「うん、わかった・・・」

『何かあったらすぐ連絡しろ、いいな?一度切るぞ?』

「・・うん・・・・・」


通話は切れて、勇者は涙を腕でぬぐいながら男に礼を言い。

シキに言われた通り、建物の影に座り込んだ。


「よりにもよって住吉かよ・・あんま近づきたくねーな・・」


シキはスマホで住所を検索しながら、携帯で魔王に連絡を取る。

『勇者?!』

「いや俺だけど、勇者の居場所分かったから迎えに行く。

勇者と合流したら知らせるから、魔王様は今から送る住所に転移してくれ」

『わ、わかったよ、勇者はどうだった?ケガとかしてなかった??』

「多分大丈夫だ。・・それよりさっきの事気にしてっから、魔王様から

連絡すんじゃねーぞ?」

『・・・わかったよ。シキ君からの連絡を大人しく・・待ってる・・・』

「いい返事だ、じゃあな」


シキは携帯を切り、電車に乗り込む。

目的の場所は5駅先だ。





シキはパーカーを目深に被って駅前の葬儀場へ急ぐ。

場所はすぐにわかった。


まだ明かりがついている。

その会場の前を一度通り過ぎて、シキの足が止まった。


シキは携帯を取り出す。

相手はすぐに出た。

『シキ君?!あのね、おじさんが、外は寒いから中に入っていいって』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・そっか・・、俺は外まで来てる。出て来れるか?」

『うん!あ、おじさんありがとう!!シキ君が外に来てるからもう大丈夫!』


携帯の向こうの声が遠く聞こえる。

目の前の会場から勇者が飛び出してきた。

男も一緒だ。


「シキ君!!」


勇者がシキの前まで来ると、後ろから来た男が「志貴・・・」と呟いた。

「あれ?おじさん・・シキ君の事知ってるの?」

「志貴!お前!!志貴だろ!!お前・・生きて・・・・・」


シキは何も答えず「行くぞ」と勇者の腕を引く。


「待てよ志貴!!おまえ・・・・、おやっさん・・死んじまったよ・・!!

最期までお前の事気にかけてた!!!おい!生きてるんなら!

連絡くらい・・・」

「すみません、勘違いだと思います。うちの弟をありがとうございました」


シキは早口で言うと携帯を取り出す。

「志貴!!志貴!!!!」


「・・おじさん・・呼んでるよ・・?シキ・・・君?」

「いいんだ、別人だから、今、魔王様呼んでるからすぐに帰れるぞ?」

「・・・・まって・・・・」


勇者は後ろを振り返る。

男は涙を流し、辛そうにシキを見ていた。


「待ってシキ君・・誰か、シキ君の大切な人が、死んでしまったの?」

「・・・・・」

「お別れしなくて・・・いいの?」

「おっせーな!!!魔王の野郎!!!」

「シキ君!!」


勇者はシキの腕にしがみついた。

シキは構わず道の角を曲がり、暗闇へと逃げ込む。


「いやーお待たせ!この辺ビルが多くて転移に時間かかっちゃったよ」

「っ!おっせーんだよ!クソが!!!」


シキが叫ぶ。


「そ、そんなに・・怒らないでおくれ・・ごめんよ・・、勇者も・・・待たせたね

さぁ、帰ろ・・」

「待って!魔王!今・・シキ君の大事な人が・・」

「黙ってろ!何も知らねーくせに!!!」


シキは腕を振りほどこうとするが、勇者は離れない。


「僕は、大人には、何度も怒鳴られた事があるからびっくりしないし、

離れないよ!!それに・・それに!

僕はシキ君の事何も知らないけど、シキ君が泣きそうなのはわかるよ!」

「うるせぇ・・うるせぇ!うるせぇ!!!」


「何?どうしたの??ふたりとも・・ケンカは・・・」

「さっさと転移しろ!クソ魔王!!」

「駄目だよ!シキ君の大切な人なんでしょ?死んでしまったんでしょ?

お別れは、きちんとしないと!!」

「??誰か死んだの?生き返らせようか?」


勇者は怒りの籠った眼差しで魔王を睨みつける。


「・・え?」


「人間が死ぬのは・・・自然の理なんだよ。僕たちの命は短い。

魔王から見たら・・ほんの少しの時間を抗う僕たちは・・・理解できない

かもしれない・・でも、それでも生きてたんだ!

一生懸命に、生きて、死んでしまった。

それを!簡単に「無かった」事にしないでよ!!!!」


「そ、そんな・・無かったなんて事にはしないよ・・僕の魔法は」

「魔法なんて必要ないんだよ・・、魔王も言ってたじゃないか!人間には

過ぎた叡智だって!・・・なんでわかんないんだよ!

魔王のばか!魔王もシキ君も・・!!大人なんでしょ!

なんでわかんないんだよ!」



中学も途中で行かなくなり。

フラフラと街中を彷徨う毎日。

ケンカの腕には自信があった、気に入らないものはとにかく暴力で

押さえつけた。

実家からも勘当され、履歴書の書き方も面接の仕方もわからずに

「取りあえず」入社した職場はビル建設会社の下請けだった。

肉体労働で、周りは自分と同じような人間ばかり。


仕事は見て覚えろ。


と言われ、その日のうちにケンカ沙汰になった。

だが、辞めさせられる事はなかった。

どんな仕事も「早く、正確に、確実に」が口癖の男がいた。

社長だった。


仕事をサボると鬼のように叱られ。

若い自分が拳で殴ってもビクともしない。


仕事は半年程続けた。

建設用の足場を組む作業が一番嫌いだった。

『一番肝心な仕事だ!手を抜くなよ!』と怒鳴られるからだ。

だから手を抜いた。


その足場が崩れ、シキは・・志貴野浩二は死んだ。

何がどう作用したのか・・そのままの記憶を持ち

知らない世界に転移させられた。


必要なものは?と「誰か」に尋ねられた。


「何でも・・早く・・正確に・・確実に・・造れる・・・力」


シキは答えた。

これであのクソジジィを見返してやる・・・。

そんな気持ちで。


だが転移先には勿論社長は居ない。

そして・・・セレモニーホールにはでかでかと見知った名前が書いてあった。

「葬儀場」と案内板が出ていた。



「ね、ちゃんと、死者の魂を送ってあげようよ・・、きっと、シキ君の事

待ってるよ・・・、ね、シキ君・・」


ぼろぼろと涙をこぼす勇者に、シキは何も言えずに項垂れる。


「・・んで・・テメが・・泣くんだよ・・・」

「・・シキ君が泣かないからだよ・・・、何か呪いでもかけられてるの??」


真顔で言われるから、少しだけ笑ってしまう。


「・・わかった・・わかった・・、わかったから」


シキは歩き出す。

勇者も続く、魔王も・・・


「何でついてくんだよ・・」

「僕はここで親切にしてもらったから、それにシキ君の大切な人の最後だから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


魔王は勇者に言われた事を考え続けていた。

ただ・・あの眼差しが忘れられない。

あれは「勇者」の眼ではなく、彼自身の眼だ。



会場はもう閉館の準備をしていた。

だが、男はシキが戻って来たのを見て会場の人間に何かを告げた。

シキは真深く被ったパーカーを外す。


「俺は、そのしき・・なんとか、さんとは別人ですが、弟が世話になったので

どうしてもって聞かなくて・・線香・・・あげたいんですけど・・」


男は何も言わずに頷いた。


会場にはもう家族しか残っていなかった。

場違いな普段着の2人とスーツの男に力無く挨拶をして


シキは飾られた写真を見る。

「生前は夫がお世話になりまして・・」か細い声には疲れが滲んでいた。


シキは略式的に挨拶をして線香をあげ・・勇者と魔王は胸の前で手を組んだ。

「失礼します」といい、会場を後にする前に、

シキは魔王の胸倉にいきなり手を入れると、バラバラと零れる万札を掴み男に渡した。


「・・・何も準備とかできなかったんで・・、すんません・・このままで」

「頂けませんよ・・私の勘違いで・・、昔、同僚にあなたに良く似た人が居た。

社長の・・・父のお気に入りで・・

それだけで声をかけてしまって・・すみません・・」

「・・・あの、こういうの、マジでちゃんとしないと、うちのオヤジがうるさいんで」


シキは魔王を見やると

「あ、はい・・、うちの子供たちを保護して下さってありがとう・・そのお礼も込めて。

不躾ではありますが・・どうぞお受け取り下さい。今回はご愁傷さまでした。」

魔王もなんとか口裏を合わせてくれた。

「でも・・」


と男が渋る間に三人は急いで外に出て、魔王は転移の魔法を使った。

男が外に出て来て三人を探すが・・・その姿はどこにもない。

男は空を仰ぎ、入社初日に殴り合いのケンカをした子供の事を思い出す。


「志貴・・・体だけはデカくなりやがって・・・。あのバカが・・・」


たった半年一緒に居た、毎日怒鳴り合って喧嘩をして、父親が仲裁に入り

二人とも殴られる・・・・

そんな馬鹿のような毎日が、今になっても忘れられない。

でも、それはもう過去の事で、もう元には戻らない。

男は自分の人生に前を向いて歩き出した。



「悪かったな・・変なのに付き合わせてよ」

「構わないよ!あのおじさん、シキ君が来る前に、シキ君の話沢山してくれたんだよ!」

「はぁ?!忘れろ!今すぐに!!」

「嫌だよ!これは死んでも忘れられないよ!!!」


二人が楽しそうに歩く帰り道。

薄暗い路地を通り、明るい「ゲート」へ戻ってきた。


「マジで疲れた・・酔いもブッとんだし・・、飲みなおすか!な、魔王様」

「・・・・・・・・・」

「魔王?どうしたの?疲れた?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、あ、あぁ、少し・・」


魔王は考える。

勇者から言われた意味、シキの行った儀式の意味を。


「・・眼・・痛い??」

「え?」


サングラスを割られた事に気づいて、魔王は曖昧に微笑む。


「僕は大丈夫」


そう自分に言い聞かせて。


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