治癒師 ハルト君との出会い

「って、もうパン関係ないやんけー」

『ありがとうございましたー』


ネタ見せが終わり、結果を待つ「魔王と勇者」

場所はシキの家、審査員はシキ一人だ。


「どう?!面白いでしょ!!」ネタに自信がありそう・・・

と言うか、既に自分でくすくす笑っている勇者。

対して魔王は顔色が悪い。


『やっぱりもう少し練り込んでから来るべきだったかな、

昨日の夜は色々あったし、朝もネタ合わせ出来なかった

からなぁ・・・、冒頭の年齢の話にするか、職業で責めるか

どっちかにすれば良かったかな』


「えー、コンビを結成して短いのに、よくここまで気の合う漫才が

出来たと思います。」


「うん!」「ほ、本当?!!」


「えー、ネタですが。時間が短いので、せめて3分間演じきれる

くらいの尺を想定して制作して下さい。次回からお願いします。

あ、と。そうですね冒頭の紹介からの年齢ネタ、職業ネタ、出来れば

どっちかに決めるか、あるいは複合させる・・・年齢ネタにもガーゴイルを

仕込む等した方がネタとしてストンと落ちる、と思います。」


「うん!」「・・だよね・・、ちょっとこれ面白いかもってノリで作っちゃたから・・」


「ノリは大事です。要はそこからどう形にするかですね。

次回、頑張って下さい。はい、次の方ー」

「ね!面白かったよね!」

「これこれ、もう僕たちの審査は終わったんだよ」

「ね!シキ君!面白かったよね!!!」


「はい次の方~で突っ込めない程度では面白くありません。

つかセンス?ねーわー勇者~」


シキにはっきり言われて初めて勇者は自分の思った

結果とシキの反応が違う事に気づいた。


「ごめんね、この子まっすぐな子で・・・あとゲラなんだよね」

「・・面白く・・なかったんだ・・・、センス・・無いんだ・・

ゲラって・・何?」


途端に落ち込む勇者にシキはその頭をぐりぐりと撫でまわして


「また魔王様とネタ作ればいいじゃねーか!お前ら本当にいいコンビなんだからさ!」

シキなりに慰めたようだが・・

「・・ごめんね、魔王・・昨日僕が剣で刺したりしなければ・・」

「ふぁっ?!剣で?!魔王様を??」

「うん・・・血がドバーって出て、倒れたんだ。だから魔王元気ないんだ・・・」

「ガキにしか見えないけど、勇者は勇者なんだな・・・、つか魔王様大丈夫なんすか?」

「うん・・平気・・、シキ君の的確なアドバイスの方が胸に刺さったよ!」

「刺されただけにってか!!さすが魔王様!やるねぇ~♪」

「そ、そうかい??あ、これもネタになりそうだね!!ネタ帳に書き留めておこう!」


「今の何が面白かったの?シキ君・・」


勇者にはまだダジャレは通じなかった。


「んで?今日はドクターん所っすか?」「うん」

シキの家を出て道なりに歩く3人。

「どくたーって??」「お医者さんだよ、治癒師」


勇者の脚が止まる。


「あん?どした」「勇者?どうしたの?」

「治癒師は・・あんまり・・好きじゃ・・・ない・・・・かな・・」


俯いたまま、動かなくなってしまった勇者に、魔王は慌てて

「だだだ、大丈夫!君と同じくらいの歳のね、物静かで博識でいい子なんだよ」

「・・・でも・・・治癒師は・・僕が死ぬと・・

「魔法かけるの面倒だから死ぬな」

って・・言うし」

「言わない言わない!そんな事言う子じゃないよ絶対!」


「行きたくないよ!城に戻る!あと勉強教えてよ魔王!昨日約束したじゃないか!」

「・・あ、あぁそうだったね・・・そうだね、今日は帰ろうか、じゃシキ君ごめんね!」


2人の姿が消える。

シキは「あんな勇者の顔・・・見てんの辛ぇわな・・頑張れや魔王様!」と、

そっとエールを送った。


「勉強を始める前に、あの村について説明するよ」


魔王は村が一望できるテラスへ勇者を呼んだ。

「小さな村だよね」

「そうだね、人口は30人くらいかな、でもあの村に住む

ほとんどの者が異世界人なんだ」

「え?!」


治癒師の一件で浮かない顔をしていた勇者が顔を上げる。

「いせかい・・って?」

「遠くのニホンと言う国からある者は転移、ある者は転生してきたんだ」


「魔王城に?」

「そう、本来なら人間たちの暮らす国に行くはずだった者たちが何故かここにね」


「そしてその者たちは「チート」と呼ばれる魔術使いでね」

「ちいと??そうなの?!シキ君も?!!」

「そうさ、彼もチート能力を持ってる、「建設」、ものを作る能力」

「作る?い、家とか?」

「勿論!家でも家具でも橋でも通路でも、なんでも作れるんだ」

「すごーい!!」

「他には・・一年中実をつける植物を作れる者、どんな水でも浄化できる者

本を持たずとも頭の中に膨大な知識を持つ者・・あの村にはそういう者たちが

暮らしている。転生して赤子の姿だったり、子供だったり、あるいはシキ君のように

転移でニホンにいた時と同じ姿で現れる者もいて・・最初は驚いたけど・・

今は皆で仲良く暮らしているんだ。勇者が大好きなパンの原料だって、あの畑で

採れたものなんだよ?」


魔王が指さす先には黄金色の麦が風に揺れている。


「あの麦は収穫しても次の日にはまた実ってる、

そういう不思議な植物を作れる者も居るんだ」

「・・へぇ・・・今度お礼を言いにいかなきゃ・・」

「そうそう、城の厨房にも、料理を極めた者が居てね勇者の好みに合うよう

毎食食事を作ってくれているよ?」

「・・・ご飯・・・」

「・・それでも・・この村の治癒師と会うのは嫌かい?」

「・・・・・・わからない・・、知らなくて・・わからない事ばっかりで・・・、

ご飯だって魔王が魔法で出してくれてるって思ってて・・・」

「あはは・・ちょっと、いっぺんに話しすぎたかな・・ごめんね」

「魔王は謝ってばっかりだし・・」

「ごめ・・え?」


勇者は魔王を見上げる。


「本当に悪いのは人間の僕で・・、魔王は・・魔王のモンスターだって・・

「いい人」だって、なんとなくわかるよ・・。


僕は、いきなり勇者にさせられて、怖い思いも痛い思いもたくさんしたけど、

それをしたのは魔王じゃないってわかってる。


今も面白い事を教えてくれたり、知らない世界を見せてくれたり・・全部・・・

魔王のせいじゃないのに・・なんで魔王は僕に謝るのさ・・・

昨日の夜だって、僕は、魔王の友達を・・ころ・・そうと・・」


「それは本当の君じゃない。

本当の君は素直でまっすぐで笑い上戸で、頭も良い。

そして僕の大事な相方だよ。だから、僕は本当の君とコンビで居たいから、

こうして君に話をするんだよ・・、でも色々見せてあげたくてつい気が急いて

しまってね、それを謝っているだけさ。」

「・・・本当に僕が相方でいいの?」

「勿論!何せ僕の書いたネタを面白がってくれるのは

君だけなんだからさ・・・」


魔王がバツが悪そうに笑う。

勇者も恥ずかしそうに笑った。


「・・・治癒師に・・会ってみる」

「え?!いいの?本当に??ハルト君喜ぶと思うよ!」

「うん・・僕は少しおかしいんだよね」「そんな事・・」

「そんな僕を・・魔王は治したいんだよね」

「出来れば君に穏やかな日々を送って欲しいと思っているよ?」

「・・うん・・じゃあ・・・頑張る!」


幼い勇者が両手を握りしめる。

魔王はその手を取って、治癒師ハルトの元に転移した。



「治癒師の店」と木の看板が掲げられた木造の建物。

勇者は見た事もない造りをした扉を開いたり閉じたり、

建物の形をあちこち見たりと忙しい。

そんな建物の一室から白衣の裾を引きずりながら出て来たのは

5歳児くらいの男の子、ハルトだった。


ハルトの第一声は・・・

「え?この子が勇者?マジ?」

「マジだよ。勇者、この子がハルト君。転生組ね。中身は40過ぎた医者だよ」

「・・・こ・・こん・・に・・ちわ・・」

勇者がおずおずと挨拶をする。


「はい、こんにちわー。いやぁ、勇者って言うからシキ君くらいかと思ってたけど・・

えと、君いくつ?」

「・・13歳です」

「え!」「え!」「え?!」


ハルト・魔王・勇者・・・お互いに驚いてお互いを見る。


「え?え?勇者の旅立ちって16歳からじゃなかったの??」

「わかんないよ・・でも旅に出た時は12歳だった・・」

「・・・・そうだったんだ・・、ていうか魔王様、そういう大事な事は最初に言わないと」

「す、すみません・・」

謝る魔王に勇者は「僕が何も言わなかっただけだから!魔王は悪くないよ!」と庇う。


「うわー・・めっちゃいい子じゃーん・・、あ、僕小児科医だから、むしろ専門かな」

「あの・・君が・・治癒師の人なんですか?」

「そうだよ?あ、やっぱ怖い?医者って子供から嫌われるんだよなぁ・・」


やれやれ・・と言わんばかりに肩をすくめる、彼も十分子供の姿だ。

ハルトは出て来た部屋に二人を案内する。


机に椅子がふたつ。

衝立を隔てた向こうに簡易型のベッドがあった。


「君の事・・君たちの事は知ってる、魔王様から聞かされているからね」

よいしょ、と机に備え付けられた椅子に座るハルトは

紙の束に何か文字を書き込んでいく。


「そこに座って?少し話しようか」

「・・・はい・・・」


勇者は不安そうに魔王を見ながら椅子に座る。


「勇者君って、お名前あるのかな」

「多分あったと思うけど、忘れました」

「そうか、じゃあ、勇者君、僕の事はドクターと呼んでいいよ?」

「・・どく・・・たー」

「言いにくかったら気軽にハルト君でも」

「ハルト君がいいです・・」見た目的にもその方が呼びやすい・・と

勇者は思ってしまった・・・。確かに自分も子供の部類だろうが

目の前の彼はもっと子供だ。


「そっか、じゃ勇者君、僕に何かお話したい事とかある?」

「え?!」

「何でもいいよー、勇者君の事を聞きたいんだ~」

「・・えと・・僕、あの・・えと・・」

「魔王様が邪魔なら出て行ってもらおうか?」


にっこり笑顔のハルト君。

「邪魔とは酷いじゃないか!」と半泣きの魔王。


「僕・・あの、昨日、魔王を剣で刺したんです。

毎日寝る前にあったかいお茶を貰ってすぐに眠れる・・

んだけど・・夜になると・・どうしても、モンスターの声が気になって・・・

それで、武器を・・魔王に秘密で色んな所から集めて・・・隠してて・・

その剣で・・魔王を刺したんです・・」

「魔王様は死なないから、命がえっと7つあるんだっけ?」

「でも、魔王・・血が出て苦しそうで・・」

「ああ、あんなに純粋な魔力が籠った遊び道具を一晩で生産すれば

魔力も枯渇し、器の体に傷もつけられるだろう。魔王様の自業自得だから

それは大丈夫、試しにもう一回刺してみる?」

「ハルト君・・酷いよ・・、そして診断が適格だよ・・僕泣きそう・・」

魔王が本当に泣きそうになりながら顔を両手で覆う。


「魔王!大丈夫?!」「そうかそうか・・勇者は魔王様が大切なんだね」

「うん!・・大切なのわかってるんだ・・でも・・・」


「そうだね・・・・眠れない夜を繰り返して・・・さぞ辛かったろうねぇ・・・

大切な魔王様を傷つけて悲しいと思う君はとても優しいし、こうして僕に

正直に話してくれた、とても勇気が必要な事だよ、偉いね」


小さな手が勇者の頭を撫でる。


「・・僕・・治りますか?」

「君の敵への攻撃衝動は、いつか必ず収まる。それまではどうか穏やかに。

自分の気持ちを押し込めなくていい、言葉に出来ないなら魔王を傷つけても

構わない」

「そんな!」

「いいんだ、魔王様はきっと君を受け入れてくれる。

魔王様に言いにくい事があったら僕やシキ君に言ってくれればいい。

君は城でも村でも一人じゃない。そして今君は、

本当の12歳の君に、自分に戻る為の練習中だと、そう思う事は出来るかい?」

「・・練習・・・」

「そう、練習だから、休んでもいいし、失敗しても構わない。上手く行かなくて

泣いても喚いても構わない。でも自分「だけ」のせいだと思う事だけはやめて欲しい」


部屋に沈黙が訪れる・・そして・・


「・・・・っ・・・は、ハルト君・・っは・・」


勇者は流れる涙を何度も何度も拭いながら続ける。


「ハルト君は、本当に治癒師・・なの??僕は・・今までそんな・・つ・・・事、一度も、

「失敗していい」なんて・・言われた・・事っ・・なくって・・・、なんで、こんな・・・っ・・

涙が・・出る・・っ・・だろ・・・っうぐ・・っ・・・」

「そうそう、泣きたくなたらそうやって泣けばいい、君は良い子過ぎたんだ・・今まで。

城の中でも。魔王様に申し訳ないと思ってばかりの毎日だったんだね」

「っ・・・らて・・らっえ・・・、まおうが・・おわらい・・とか・・っ、ぼくっを、たのしくっ

させる事・・ひぐっ・・ばっかりして・・夜もっ寝ないで・・っ、そばにぃ、いるからっ・・・

ぼく、ぼく・・っ・・・うあ・・っ・・・うわぁあああああん!!!」

「よしよし、いい子いい子、沢山泣いていいよ、丁度そこにいいハンカチがある。」


勇者は涙をぼろぼろ零しながら魔王を見上げる。

魔王は勇者以上にボロボロに泣きながら、勇者を抱き寄せた。


「っ・・んで・・、まおっが、なぐっんだよぉ~」

「だって、だって僕、君がそんな事考えてるなんて、全然気が付かなかったんだよ~

ごめんよ、ゆるしておくれ・・・ごめんね・・ごめんね」

「・・あやまっらなくて・・いいっ・・てぇあああああん!!」

「ごめんごめん・・本当にごめん・・」


二人の泣き声は暫くの間異世界の診察室に響いていた。


「まずはゆっくりね、練習を始めようね、ではお大事に」

「っく・・はい・・」「はい・・」


ふたりで部屋を出ると、そこには村の人が何人か居て・・


「あら、魔王様ないてはるの?」「魔王様、むしばー?」

「これは!見なかった事に!!!」魔王は勇者を抱いて城まで転移した。


気持ちを吐き出して沢山泣いた勇者は、気持ちが落ち着くようにと

出された紅茶とパンケーキを食べてすぐに眠ってしまった。


『まさか・・すべて見透かされていたとは・・・、したり顔であれこれ言ってた

自分に呪詛をかけたい・・・・・・呪いたいっっ!!!』


そして魔王が一番気がかりだったのは・・・


『本当は僕のネタ・・・そんなに面白くないのかな・・・、勇者が目が覚めて

解散とか言われたら・・どうしよう・・・』


・・という事だった。


その時、村との連絡用回線から通信が入る。

相手はハルトだ。


「あ、ごめんね、今勇者が寝てるから、精神通信に切り替えるよ」

「切り替えてから言わないでよ・・まぁいいけど・・」


ハルトは使い慣れた小型の携帯を閉じて話を続ける。


「勇者君はよく眠ってるかい?」

「ああ、多分・・恐らく・・・あるいは・・起きて僕の様子を伺っているのかも・・」

「何を気弱になってんの!『心に傷を負った勇者を助けてはくれないだろうか』って

言ったあの日の・・」

「忘れてーー!!あれは忘れて・・・お願い・・」

「・・それに魔王様が勇者君を疑ってどうするのさ、本末転倒だよ!

それにお笑いコンビを解消されるんじゃないか、

なんて・・どうせそんな事考えてたんだろう?そんな場合じゃないよ!」

「すみません・・」

「そんな事だろうと思って連絡したよ。今日、勇者君は今言葉に出来る事は

少しは吐き出せたんじゃないかな・・・、初めて自分を認めてくれてる人が居る事

ここに居ていい事をわかったと思う、でも」

「はい・・」

「油断は禁物だよ、彼は本当に思慮深い、子供にしては出来すぎている。

今までも周りに気を使い、怯えながら生きて来たのだと・・思う。

そこに勇者という鎖がついて、更に何度も死の恐怖を味わった上に

誰からも「勇者扱い」してはくれない環境の中で生きて来た。

魔王様は彼の心の傷ばかり気にするけど、その心に傷を付けているのは

彼自身という事にも目を向けて欲しい。」

「え?え・・どういう事?人間ってそういう事をするの?

自分で自分を傷つける・・?何故・・」

『あ、こいつダメだ』ハルトの心の声が漏れた。

「すみません・・」

「人間ってのは、ふてぶてしく世界は自分のものだと思って生きてる反面

中身はとても脆いんだよ。だから、神は人間に「寿命」を与えたんだろうね。

人が人の中でしか生きられないようにして、相手を思いやる気持ちを持って

家族として繋がれるように・・、まぁ今じゃそんな環境に適合できない人間の

方が多くて、そういう人間は、「仕方ない」から自分を責めて傷つけるしかないのさ。

逆に自分自身を褒める事が出来る人間は、相手を褒めてあげられる、気づける

から一人にはならない、ままならないね・・」

「・・・んー、僕は暫く一人の時があったけど・・・、自分の事がどうとか考えた事

ないなぁ・・、今日は晴れてるなーとかそんな毎日だったよ?

それでは駄目なのかい?」

「・・・・・魔王様には寿命がない寝食も必要ない、これが一番人間と違う点だ。

勇者君の事に気づけなかったのも当然だから、あまり気にしないで欲しい」

「・・そ、それを言われると・・」

「・・僕も前世では自殺した身だ、今日勇者君にかけた言葉は、本当は

僕が一番・・誰かに言って欲しかった言葉だと思って・・後悔してる」

「自殺って転生する為に行う儀式なんだろう?君が気に病む必要はないさ。」

「自殺したら転生なんかしない、地獄に行くんだ。

それこそ毎分毎秒、後悔だけを繰り返す・・でも「戻れない」そんな地獄だよ

僕は、何か数奇な運命でここに転生出来たんだけど」

「そのおかげで、勇者は泣く事が出来た、本当の気持ちを言葉にして僕に言ってくれたよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「ハルト君・・?泣いてるの?」

「・・・・・別に、でっかい蜂に刺されただけ」

「え?!マジで!それって痛くないの??」

「別に・・・・、魔王様ってほんと・・アレだよね・・、人間の事には鈍感なくせに

急に変な事いうよね。」

「え?!面白かった??今のネタに使えるかな?!」

「ウケないと思うよ。じゃ、勇者君の事・・何かあったらすぐに僕に連絡して、

あと、言うまでもないけど、勇者君が集めて隠してる武器はそのままに

しておいて。今まで通りモンスターは近づけさせないよう。

あと変なおもちゃの生産禁止!ハカセがあのゴミを子供から高値で買い取って

いるから注意してよね!」

「ああ・・うん・・面白く・・ないのか・・」

「今気にするとこはそこじゃない!」

「はい!・・すみません」

「くれぐれも頼んだよ!!!」

「はい」


精神通話が途切れる・・とは言え、精神に直接干渉出来るのは魔王の方なので

魔王が「通話」を終わらせた、とも言えた。


「はぁ・・人間との会話は「時々」「多少」「微妙」に噛みあわない・・、

矢張りもっとお笑いを勉強しないと!あ!そうだ・・」


魔王は眠る勇者を見て彼がするようにくすくすと笑う。


「シキ君に連絡しよっと!」



勇者は陽が落ちる頃に目を覚まし・・夕食と入浴を済ませ・・ベッドに入る。

無意識に枕の下に隠した武器に手を触れる・・。

「あの・・」「うん?」

「・・お城から・・・勝手に持ち出した・・」

「ああ、武器ね、いいよそのままで!あと、それで僕を攻撃しても」

「しないよ!・・・・多分・・」

「なんだ・・しないのか・・」


落ち込む魔王に勇者は驚く。


「・・刺されたら・・・痛い・・でしょ?」

「いや痛くはない。

それより、「うわー・・やられたー・・これで済んだと思うなよ!」って、

寸劇?をやってみたかったから」

「・・・・すん・・げき?」

「オペラさ!芸術だよ!」

「・・・怖くないの?僕が弱いから?」

「勇者の事は怖くないよ?それに君はとても強い、とハルト君が言っていた」

「魔王は・・死ぬのが怖くないの?」

「僕は死なない、死ねないの方が正しいかな・・「死」という概念が」

「がい・・ねん?」

「そう、僕は死なない、というキャラなんだよ」

「きゃ・・ら?」

「そんな事より勇者!!明日は楽しみにしておいで」

「・・え?」

「ふふふ・・!!明日だよ明日!陽が昇ったら!シキ君と僕と

異世界転移しよう!!!!」

「・・いせ・・かい・・てん・・」

「ふふふ!!本当はさ、もっともっと色んな楽しい事を

勇者に教えてあげたいんだけど、やっぱりとっておきはコレ!

異世界!異世界転移だよー!!!」

「・・・・」


嬉しそうな魔王に、勇者の胸も高まる。


「ニホンの若人が誰しも憧れる異世界転移!

綺麗なもの、美味しいものが沢山ありすぎて困るくらいの・・

そう、桃源郷、さ!」

「とう・・?」

「行けばわかるよ!!!さぁ、明日が楽しみになったかい?」

「・・う、うん!!!」

「うんうん!じゃあ、しっかり眠るんだよ?あ、ちなみに僕が

夜もずっと君の側に居るのは眠る事が必要ないから、と言う理由と・・」

『ネタを考えてるから』


2人の答えは一致して、魔王は驚いて、勇者は可笑しそうに声を上げて

笑った。

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