自分の「ギフト」
かれのように、なりたい。
じぶんもいつか、ああなるのだ。
たいせつなものを、うしなわないように。
たいせつなだれか、をまもれるように。
「なあ、アレク~ どうやったら、ギフトってつかえるようになるんだ~?」
おれは、部屋ののすみ。
幸せそうな顔でリュートを磨く兄弟にそう問いかけた。
一緒にこの城で育ったものは、家族。
兄弟だとマリカ姉は言った。
家族、兄弟というものはよく解らないけれど、
「一緒に暮らす大事な人」
だということは教えて貰った。
姉と兄は、自分より上の存在で守ってくれる存在。
そうでない者も共に生きて行く者だということは、なんとなく解っている。
リオン兄とフェイ兄のように、助け合って。
だったら、アレクは自分と本当の意味で一緒に生きて行く者だろう。
おれは、兄弟というものをそう思っている。
「アーサーもギフトがほしいの?」
リュートを磨く手を止めずアレクが答える。
「エリセもズルいって言ってた。
マリカ姉みたいな力がほしいんだって。ナイフもってお肉にらんでる」
台所で包丁握りしめて肉を睨むエリセが簡単に思い浮かぶ。
おれは、吹きだしながらも頷いて見せる。
「そりゃあ、ほしい。とうぜんだろ?
ギフトがあれば、はやくリオン兄みたいになって、みんなを守れるじゃん」
「でも、ぼくのはアーサーの役には立たないとおもうよ。
自分でしようと思ってなにかできるわけじゃあないし、なんで自分にそんなギフトが生まれたのかわかんないもん」
そもそもフェイ兄に言われなければ、自分の声が特別なものだなんて気が付かなかった。
とアレクは言う。
まあ、それはそうだろう。
こうして聞いていてもアレクの声は、キレイだな。いい声だな。と思っても特別な力があるとは思えない。
ただ、歌を歌う時は別だ。
アレクの声に引き込まれる。
もっとずっと聞いていたい。と思ってしまうのだ。
…正直、悔しい。
アレクは運動が苦手な事もあって、おれは勝手に弟分だと思っていた。
おれより下、守らなければならない相手だと思っていたのに、先にリオン兄やフェイ兄のような「特別な力」を身につけた。
スゴイとみんなが褒めて、兄や姉に認められているアレクが羨ましい。
自分もそうなりたいと、心から思うのに、どうしたらいいか解らない。
どうやったら「ギフト」が目覚めるのか?
と兄たちに聞いても答えはみんな、「解らない」
いつの間にか、自然に、気が付いたら…としか教えてくれない。
マリカ姉は、自分でギフトに驚いていたから参考にならない。
身体を鍛えればいいのか。
技を磨けばいいのか。
心を育てればいいのか。
努力すれば身につけられるものなのか。
欲しいと思えば、願う力が手に入れられるのかそれも解らない。
…ギフトを得た自分を想像する。
リオン兄のように、自由に望むところに飛び回り、獣や敵を倒す。
マリカ姉のように、手を差し伸べたら物が自分の思い通りに変わる。
どんな本も読みこなし、あらゆる知識を身に着けてそれを的確に使うフェイ兄のようになるのもいいかもしれない。
危険を避けるアル兄の瞳も羨ましい。
どんな力であろうと、きっと自分は今よりも強くなれる。
憧れる背中に近付けると思うのに。
心から『特別な力』が欲しいのに…どうすればいいのか解らない。
「あのさ…アーサー」
アレクはリュートを置いて、おれを見た。
口数が少ないアレクだが、真剣におれのことを考えてのアドバイスだと思うので、おれも顔を上げてアレクを見る。
「アーサーは、なにをしたいの?
リオン兄と同じになりたい?
リオン兄といっしょに戦えるようになりたい?
それとも、リオン兄を助けたい?」
「なにを…って、リオン兄みたく強くなる。
そしてこの城とみんなを、リオン兄といっしょに守るんだ」
おれは答える。
この城が無くなったら、また元の生活に戻るのだと、フェイ兄に怒られたことを思い出す。
…ここに来る前の事はもう思い出すのも難しいくらいに遠いけれど。
遠くしてもらったけれども。
それでも、思い出そうと思っただけで背筋が寒さに震える。
食事も無く、ボロボロの服で、冷たい板の上で眠り、命令以外の言葉をかけられることなく働かされていた日々。
絶対に戻りたくはない。
戻らない為にはなんでもできる。くらいには。
「フェイ兄はさ…」
ゆっくりと考えながらアレクは言葉を紡ぐ。
「リオン兄のためになる。
それだけに自分の全部、つかってる。
もちろん、ぼくたちもだいじにしてくれてるけど、それもリオン兄のためだと思う」
「…そうだな」
リオン兄が傷ついた時に見せた、あの恐ろしさをおれは忘れない。
リオン兄を傷つける者は絶対に許さないと言い切った、あの冬の寒さよりも冷たい眼も。
「だから、強い。だから、まよわない。
アーサーはさ。ぜったいに、何があってもゆずれない、ってもの、ある?」
「何があっても、ゆずれない…もの?」
アレクの問いにおれは考える。
「ぼくは、リュート。
リュートを弾くなって言われたら、フェイ兄でも今はイヤだって言える。
もちろん、リュートよりはマリカ姉や、みんなの方がだいじだから、リュートとみんな、って言われたらみんなをえらぶけど。
リュートをずっと弾くな、弾いたらころすって言われても、たぶんリュートを弾くよ」
横に置いたリュートを大事そうに抱きしめてアレクは告げる。
冗談のように聞こえるけど、本当に、本気で言っているとおれには解った。
「たぶん、なんだけど『ギフト』って自分がやりたいことを助けてくれる力、なんじゃないかって思う。
ほしい、ほしい。じゃなくって、じぶんはこれがやりたい。
そのために、どうしても…ってときに、お星さま? それとも自分かな? が力をかしてくれるんじゃないかな?」
それは、アレクがきっと力に目醒めてからずっと考えて、出した結論なのだと思う。
当たっているか、間違っているかは解らないけれど。
とにかく、ほしいほしいとわめいているだけでは多分、無理なのだということは…解った。
「おれがやりたいことは、この城とみんなをまもる。
リオン兄のように強くなる。
でも、そのために、どうすればいいのかは…わからない」
「うん」
「だから、かんがえる。どんな自分になりたいか。何をしたいか。
どんなギフトがほしいのか。ホンキでかんがえる」
「うん」
「あたまでリオン兄を助けるのは、もうフェイ兄がいるから、べつの方がいいよな。
リオン兄と同じじゃなくって、リオン兄を助けられる方がいい」
「うん。それでいいんじゃないかな?
そうすれば、きっとアーサーにもやりたいことを助けてくれるギフトが出てくるよ」
「出てくるって、はたけじゃないんだぞ。でも…」
ニコニコと笑うアレクに、そう言って…でも忘れずに
「ありがとう。アレク」
「どういたしまして」
ちゃんとお礼を言った。
お礼の言葉は大事だと、マリカ姉が何度も何度も教えてくれたことだ。
考えよう。
ちゃんと。
自分がやりたい事。自分がやらなくてはならない事。
そして、自分が何になりたいか。
何が足りないか。よく考えよう。
リュート磨きに戻ったアレクを見る。
勿論、まだ羨ましい。
でも、気にするのは止めにする。
おれは、おれだ。
アレクと同じにはなれない。
同じギフトはいらない。
ゆっくりと、考えて向かって行こう。
自分の「未来(ギフト)」を…。
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