魔王城の保育計画
保育士、幼稚園の先生というのは子どもと遊んでいるのが仕事だともし思っている人がいるなら声をあげて言おう。
それは間違いだと。
それぞれの職場の福利厚生などにもよるが、かなり仕事量は多い仕事なのだ。
…一応、ブラックだとまでは言わないけれど。
勤務時間全てが子どもと関わる時間であり、その中で準備の為の時間、計画を立てる時間、環境を整える時間、反省、報告を書く時間として与えられる時間は極めて少ない。
+掃除、お知らせ、保護者対応その他もろもろに行事が入ると、夜も休みもほぼ潰れる。
我ながら良くがんばったモノだと自分を褒めたくなる。
とはいえ、保育計画は重要だ。
保育士は子どもを良く育てる為に一人ひとりに合った保育計画を立てて子ども達に接している。
ただ遊んでいるように見えるかもしれないけれど、緻密な計算と計画の上で考えて遊びを、行動を促し育てているのだ。
紙が貴重なこの世界。
書いて残すことはできないけれど、衣食住が安定し、生活習慣も身についてきたそろそろ、子ども達をどう育て、どう導いていくか、考えておかないといけないよなあ。
子ども達が寝静まった夜。
私は子ども達の寝顔を眺めながら一人、そんなことを考えていた。
今、魔王城の住人は守護精霊エルフィリーネを除くと私を入れて14人。
そのうちリオン、フェイ、アルは別に考えて私が保育士として見なければならない子は10人だ。
一番小さい子は2人。
ジャックとリュウ。
始めはまったく歩けなかったけれど、だんだんにつかまり立ちをして歩く事もできるようになってきた。
言葉もまだほとんど出ない。
私の日本で子どもを見て来た経験からすると身体の大きさは2歳前後。
成長としては1~2歳くらいだと思う。
明らかな栄養&愛情不足。
でも、ここに来て少しずつ、食欲体力がついてきた。
言葉も「あー」とか「うー」とかだけれども出てきて、自分の気持ちを伝えようとするようになってきた。
まずは自分で食事をする事を覚え、体力をつけ元気に動ける様になってほしいと思う。
安全に動ける様に、環境を整える事も大事だ。
ギルとジョイは2~3歳前後に見える。
この子達も最初はまったく動けなくて、人を見るたび怯えていたが今はかなり動ける様になり、食事も自分でできる。
身の回りのことを、自分で完全にできるようになるのが今後の目標だろう。
あと、この二人はかなり甘えが強い。
自分を見て欲しいという欲求を強く出して、他の子が私やエルフィリーネに甘えていると怒って叩いたり、他の子にかみついたりすることもある。
言えば解るし、ジャックやリュウなど小さい子にはやらない。
淋しさ、独占欲とかが出てくるころだ。
一方でそれを言葉に出せず、もどかしさから手が出やすくなる。
思いを受け止めつつ、相手を傷つける事は絶対にいけないのだと知らせて行かなくてはならない。
クリス、ヨハン、シュウは幼稚園年少から年中くらいだと思う
こっちの言う事も解るし、自分の気持ちも伝える事ができるようになっている。
ここに来る前に働かされていた経験があるようだ。
クリスは人の表情を伺うようなところがあるけれど、細かい所に良く気付く。
掃除が凄く丁寧だ。
片づけや掃除の手伝いなどを頼むと、驚くほどに素早く行おうとする。
…できなければ傷つけられるようなめにあってきたのだろうか。
やらなくてはならないこと、はしっかりと伝えるができた時には、それを褒めて人に言われたから、ではなく自分からできるように伝えていきたい。
あと、シュウは絵に興味があるようだ。画集が好きで見せあげると満面の笑顔で見ている。
ここで絵を描かせてあげるのは難しいけれど、なんとか伸ばす方法はないだろうか?
ヨハンは食べるのが好きで、絶対に食事を残さない。
食材にも興味津々のようなので、畑の世話とかを任せてみるのがいいかもしれない。
アレク、アーサー、エリセは最近とてもしっかりしてきた。
身体は4~5歳前後
幼稚園年長くらいに見ていたけど、もしかしたらもう少し大きいのかもしれない。
魔王城に来てから、そしてここが安心できる場所になってきてから。
言葉もどんどん聞いて覚えて、出せるようになってきている。
ちょっとしたお手伝いならなんなくこなせるし、私達と会話もできる。
読み書きの勉強とかもできるんじゃないかと思えるくらいだ。
アレクは少し身体が弱そうだ。
昔の後遺症か足を引きずることがある。
でも本やお話が好きで、私の素語りの童話などをとても集中して聞いている。
頭も良さそうで、私が話した童話を覚え、他の子に片言で話したりしている姿が見られた。
アーサーは逆に活発で部屋の中を走り回っている。
転んでもぶつかってもめげない。
リオンが憧れのようで、ナイフが欲しいと最近は口にしている。
まだナイフを持たせるには危ない気がするけどもう少し体力がついてきたらリオンに教えて貰う様に頼んでみようかと思う。
エリセは唯一の女の子。
最初は本当に周囲を怖がり、リオンやフェイにもビクビクした様子が見えたけれど、最近は「違う」と安心したのだろう。
笑顔を見せてくれるようになった。
私に一番なついてくれて、お手伝いも良くしてくれている。
男の子だから、女の子だからと分けるつもりはないけれど、衣服の着脱を一番に覚え、小さい子の面倒も見るのも好きな様なので色々と手伝ってもらうつもりだ。
「違う…か」
私は毛布をかぶって眼を閉じた。
どうして、ここに女の子が少ないのか。
そうしてエリセがここに来た当初、大きな男性に酷く怯えていたのか。
想像できてしまう自分が嫌だ。
目を開けると美しい魔王城の天井が見える。
手を伸ばす。
この魔王城は平和だけれど、外にはもっと酷い目にあっている子どもがたくさんいるのだろうと想像すると、もっともっとイヤになる。
子ども達を早く助けに行きたい。
でも、今の自分には力があまりにも足りないのが解っている。
一番、保育計画が必要なのは私だ。
ギフトと、向こうの世界での知識はあるけれど、私にはそれ以外のものがあまりにもなさすぎる。
体力、この世界の知識、常識、影響力。
何もかもが足りない。
学ばなければ。
いろんなことを。
私が知らなければ、子ども達に教える事もできない。
力を付けなければ。
抗う力が無ければ、世界の全てから子ども達を守る事も出来ない。
明日になったら、フェイとエルフィリーネに相談して、本気でこの世界の勉強を始めよう。
まずは文字、それから計算。
地理、歴史、世界の現状もできるだけ勉強しよう。
アルとリオンも勉強に誘う。
勉強は重要だ。リオンも説得しよう、
この魔王城を守り、そしていつか他の子ども達も助けに行くのだ。
魔王城が子ども達の「安全地帯」になればいい。
安らぎの場になるといい。
いや、絶対にそうするのだと、私は心に強く誓って眠りについたのだった。
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