第93話

 兵士達は訓練通りに馬止めを出す。

 ファランクスから派生した、三列横隊を組みあげて設置型の盾を配置する。一列目から順々に膝を付き、中腰に、直立で、来たる客へと弩弓を向ける。最後に羽飾りのついた兵士が剣を抜くと、彼らの前で頭上に掲げた。

 ソードは一層姿勢を低くして馬の上から盾を構える。騎兵用の盾は重くて厚く、極めて大きい。ソードの身体をすっかり中に収めてしまえるほどだった。

 兵士達がクロスボウの引き金に指を置く。突進してくる騎兵を前に、彼らは極めて冷静で落ち着き払っている。馬止めと、そして盾に守られて、彼らは射撃の合図を待った。

 七十、五十、三十と一秒おきに距離が縮まる。兵士の剣が朝の日差しに輝いた時、叫びと共に振り下ろされた。

「撃え!」

 一斉に矢が撃ち放たれる。

 回転しながら、やや山なりに、風を切って飛翔する。攻撃的な雨あられは、盾に弾かれ、馬を貫き、ソードの頬に傷を付けた。

 槍の柄で馬の尻を強く打ちつけて、更に速度を上げさせる。平たい槍の先端を兵士達へと差し向けて、馬止めに怯むことなく突き進む。馬は速度を一層上げると、先の尖った馬止めに腹を傷つけながら飛び越えた。

 槍に突かれて接地型の盾が飛ぶ。

 止められないと、ようやく理解した兵士達は逃げ惑い、武器を捨て頭を抱えて地に伏せる。馬は彼らを飛び越えて、第三の関所を突破した。

 外套を朝の風になびかせながら、雪が残る峰を飛び越す。

 街道は花畑の中を突っ切って、真直ぐ帝都へ伸びている。炎が消えた篝火の白い灰と、色鮮やかな花弁が散ってソードの纏う風に舞う。お供に灰と花弁を引き連れながら、まっすぐ馬を走らせる。

 帝都の空を哨戒していた無人機たちが彼女に気づく。それらはまるで集団で飛ぶ羽虫のように、群れを成して動き出す。ソードは槍と盾を鞍に納めて両手を開けると、ナイフとグローブを外した。

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