第94話
白くて頭の大きなイルカに羽を生やしたような形状の、攻撃機型を筆頭に、水平複座の灰色をしたヘリコプターが続く。無数の子機を支援に連れて、夜明けの空を飛来する。
似つかわしくない現代兵器の数々は、具現の勇者の魔法であった。
圧倒的な魔力と物量に物を言わせてフルタイムでの警戒、そして掃討をする。本人が直接操作をすることも無く、機械たちは己の判断で具現の勇者の意図に従う。
外したナイフとグローブを鞍の間に挟み込んで袖を捲る。
あれらを突破できる勇者は、世界中を探しても多くは居ない。
だからこそ、ソード達には圧倒的な力が必要だった。
ソードは片手剣を抜き、自らの腕を強く噛む。迫る無人機たちから目を離さずに、袖を捲った腕を切り落とす。剣に付いた血を払い、鞘に戻すと口から腕を受け取った。
攻撃機型の腹部が開く。中から姿を見せたのは、吊り下げられたミサイルだ。
切った腕の手首を掴む。そして高々と空高くへ放り投げる。
腕は肘を曲げたり伸ばしたりを繰り返し、回転しながら空を舞う。
青く澄んだ朝の空に玉虫色のベールが一気に広がる。
ソードが空の腕に魔法を使うと、それは瞬時に再生し完全体のミツキになった。
空へ空へと上がるミツキの身体が速度を失い、反転し、落下に転じた時だった。
黒く濃厚な魔力が獣の姿で実体化する。鋭く巨大な牙を剥き、再生されたばかりのミツキを喰らう。着地と同時に口が閉じられ、はみ出た手足が地面に落ちた。
獣、それも大型のネコ科のような形態で、魔神はソードの背後に続く。
攻撃機から二発のミサイルが放たれて、ヘリコプターの機銃が回転を始める。ソードが背後を肩越しに見やると、魔神は深く踏み込み彼女の頭上を飛び越えた。
前足でミサイル二発を叩き落とし、攻撃機を強靭な顎で噛み千切る。自身の身体を一度魔力に還元させると人型となり、炎の剣でヘリコプターを切って落とした。
無人機は炎上しながら花畑へと落下して魔力に還る。
魔神は更に迫る子機たちへ、黒い炎の魔法を放つと、半数以上を焼き尽くした。
熱風の中を突き抜けて肩から先を再生させる。次から次へと迫り来る無人機たちは魔神に任せ、グローブとナイフを装着し直し槍と盾を持つ。断続的な爆音の中、邪魔者たちを撥ねながら貧民街へと飛び込んだ。
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