第89話
魔神の炎に包まれながら二人は進む。時折姿を見せる魔族は全て焼き払われ、近づく前に魔力へと還る。
グレイの腕を肩に回して、ソード一人のカンテラの灯が示す先へと、二人で一緒に歩き続ける。どちらも一言たりとも発する事無く、ただ淡々と足を動かしていた。
人型魔族が現れる。
おぼろげで、曖昧な輪郭を持つそれは、尖った耳をした老婆であった。
黒い炎が焼き払い、魔族の姿は消え去った。
二人はなおも進み続ける。
人型魔族が現れる。
おぼろげで、曖昧な輪郭を持つそれは、二色の瞳を持つ少女であった。
黒い炎が焼き払い、魔族の姿は消え去った。
二人はさらに進み続ける。
手や足、頭に胴体を、魔力が形を成していく。不完全な人型は身体の一部を形作って、床に転がり蠢いている。ソードは自身と同じ顔立ちをした、転がる頭を蹴ると、魔神の炎が全て焼き消す。
建物の外に出る。
ファサードで待っていたメイスとクロスが立ち上がり、ソードからグレイを受け取り身体支える。
人も、鳥も、虫はもちろん、魔族すらも姿は無い。四人の他に、無機質で荒れ果てた廃墟だけが広がっていた。
無音の世界に風が吹く。積もった砂が舞い上がり、ソードの頬に触れた。
崩れた塔が風に晒されて、唸るような声を出す。
千年か、万年かの時を経て、亡国はいつしか砂の下に沈み、記憶と記録の両方から消えるだろう。そして新たな国の礎になる。人族か蛮族か、はたまた魔族なのかは不明だが、栄え、滅びて、また消えるのだ。
月は地平に沈みかけ、青から赤へと変色している。夕陽のような色ではない。もっと黒く、暗い赤だ。
月が沈めば陽が昇る。陽が沈めば月が昇る。どちらもなければ星が輝く。
何千、何万、何億も、幾度と無く繰り返された法則だ。
魔神は魔力となって傍に居る。姿は見えぬが存在だけは感じられる。息遣いとか物質的な物とは違う。魔力を通じて繋がった意志のような。魔神はソードの意志と意図とを理解して、彼女を守り包み込んでいた。
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