第84話

 ソードは一人先に魔族の中を突き進む。

 叩き切り、殴りねじ伏せながら旧都の中心へと向かう。魔族の中から氷の楔が撃ち放たれて頬を掠め飛ぶ。

 陸からも空からも、迫る魔族を片端から叩き伏せる。鋭い爪の一撃をバックラーで流して切り上げ、鋼の礫に気づくと咄嗟に転がり避けた。

 一体ずつ的確に、魔族を倒していく。同時に傷も多くなるが気にも留めず、自身を治療しながら突き進む。

 メイスにクロス、グレイ達は、ソードを何とかフォローしながら、やっとの思いで着いて行く。だが魔族達は容赦なく、次から次へと姿を現し、三人は早くも息が上がりつつあった。

 炎の魔法に髪を焦がして、腕で直接牙を防ぐ。噛みついた魔族を無理矢理振り回し、魔法の盾にし投げつける。四足型の魔族を蹴り踏みつけては脳天から剣を刺し貫いた。

 切れば切る程敵は増え、牙を、爪を、魔法を使い襲い掛かる。際限ない攻撃は止む事も無く、身を守るために倒しても叫びをあげて増え続けた。

 痛みは全く感じない。傷を負い、骨が折れるその度に、魔法で治療しながら剣を振る。刃は欠けて鈍らとなり、魔法を受け止め、へし折れた。

 第二の城壁を越える。

 獣のような四足、有翼型は徐々に数を減らし、代わりに人の形をした魔族が姿を現し始める。例に漏れず半実体のぼやけた身体に二足二腕に一頭を持つ。典型的な人型だった。

 奴らは皆、武器を持ち魔法を撃ちながら迫り来る。

 砂を舞い上げる風の魔法を掻い潜り、唸る大剣をバックラーと短剣の二つで受け流す。カウンターに胸、首、頭を順に突き、最後に蹴って突き飛ばす。

 翼膜を広げ空へと避ける竜人型の魔族に加え、二本の手を付き下をくぐる獣人型の魔族が、それぞれ戦斧と、二本の短剣を振り上げソードへと襲い掛かった。

 矢とナイフが魔族を貫き、ソードの脇に倒れ込む。

 ハーフリングとウィザード型の魔族をグレイとクロスが突き飛ばし、間髪入れずに現れた樹人型をメイスが遠くへ殴り飛ばした。

「アンタは行って。足止めして置く」

 崩れかけた城のファサードで、メイスはソードに言い放つ。

 ソードが何かを言う前にフレイルを抜いて反転すると、一振りで三体の魔族を吹き飛ばす。

 魔族達は翼を広げメイスの頭上を越えようとする。クロスは新たに矢を装填すると、振り向きながら撃ち放ち、私も残るとソードに言った。

 ソードとグレイの二人は数少ない魔族を片端から切り殴り伏せ蹴ながら、長い通路を駆け抜ける。血と汗と砂と泥にまみれながら、休むことなく刃を振るう。グレイの放ったナイフが魔族の頭を貫くと、二人は同時に跳び蹴りを決めて広い部屋に飛び出した。

 暗く、静かな空間だった。崩落した階段に、朽ちたタペストリー、そして割れて砕けたステンドグラスは、砂埃の中に埋もれている。重厚な石の壁には隙間なく彫刻が施され、メリハリのない装飾は、立体ながら平面的に見えていた。

 低い唸りと荒い鼻息が響く。月の光が届かぬ先を、カンテラの灯が照らしあげる。弱く、小さな光を受け、鈍く輝く瞳が浮かぶ。大きく重たい足音が地鳴りをもたらし、それはゆっくりとした動作で月光の下に姿を現す。

 魔族共通の陽炎のような輪郭に、鱗の付いた太い四つ足に長い尾、一対の翼膜だけに飽き足らず人間の上半身のような物が生えている。肩から二本の腕が伸び、片手に盾と、片手に剣を備える。竜にも近い頭を携え鼻息荒く、燃えるような瞳で、それは二人を見下ろしていた。

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