第83話

 満月に塔の影が浮かぶ。人の気配はどこにもない。

 あの日あの夜あの空で私は産まれ落ちた。それも自分で自分を使い捨てにするつもりで。

 レナームの炎で焼けた街中は、どこも黒ずみ、煙立つ様子が目に浮かぶ。

 黒くて太く炭化した野生動物の塊が転がっている。元は何かもわからぬほどに崩れ落ち、唸るような風の音が空に響く。

 四人が焼け切れた城壁を超えた時だった。

 今も残る黒い焦げ跡の中で、四足型の魔族が数体姿を見せる。不定形の姿形で、輪郭は陽炎のように揺らいでいる。奴らはソードに気づくことなく、夢中で何かを食べている。何かの拍子で丸い物が飛び出すと、砂に転がり、ソードのブーツに当たった。

 唸り吠え出し、魔族がソードに跳びかかる。彼女は眉の一つも動かさず、片手剣を抜き叩き伏せた。

 頭に響く耳障りな悲鳴にも似た声で叫び、割れた頭で立ち上がり、今にも喰らいつこうとする。割れた頭の魔族が襲い掛かるよりも早く、一本の矢が刺し貫いた。

 不定形のゴースト系統に似ているが、決定的な違いがある。肉体の無い魂に魔力が集ったのがゴースト達であるのに対し、濃厚な魔力が集まり疑似的な魂を生み出し形を成したのが魔族だった。だから魔族に知能は無いし、常に魂に飢えている。凶暴で極めて貪欲で、人族はもちろん、蛮族さえも近寄ろうとはしなかった。

 クロスが新しく矢をセットする。

 魔族が発した雄たけびに周囲の魔族が反応し、我先にと、こぞってミツキ達へと跳びかかる。

 ソードは左へ右へと剣を振り、容易く魔族を切り捨てる。それぞれが絶命と共に悲鳴を上げて、悲鳴が魔族を呼び寄せた。

 空高くから有翼型の魔族が迫る。

 鋭い爪を差し向けて、ソードめがけて襲い掛かる。今にも貫こうとした時、投擲されたメイスが頭を直撃し、勢いのまま地に落ちた。

 有翼型の魔族は一層大きな声で鳴き叫ぶ。やがてそのまま力尽きると、ぼやけた身体は霧散して元の魔力へと還元された。

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