第79話

 レインに向かって矢を放つ。

 回転しながら霧を引き裂き一直線に飛んでいく。決して遅くは無いが、動じる様子を一切見せず、最小限の動きで避ける。

 サイドバーを踏み下ろし、矢を引き抜いてセットする。左右同時に構えると時間差をつけて引き金を引く。

 まずは左手、レインの左半身を狙い回避を誘う。

 間髪入れずに右手から放ち、予測された回避先へと狙って放つ。

 一発目までは予想通り、回避行動を取った。回避先も狙い通りだが、レインを目がけて飛ぶ矢はあっさりと素手で掴まれた。

 通用しないと思っていたが、全くダメとは思わなかった。向こうは武器も防具も着けてないのに、明確なまでに不利だった。

 矢筒から矢を取った。

 クロスボウにセットせずに、矢を手で固く握り締める。

 歩み寄るレインから目を離さずに、クロスは自らの太腿につきたてた。

 鋭い矢尻がパンツを貫き、赤色の血に染まっていく。歯を食いしばりながら力任せに引き抜くと、装填し、外套と共に発射した。

 矢は外套を引きずって、はためきながら飛んでいく。

 レインは容易く矢を避ける。

 クロスは武器を一つ手放すと、ナイフを引き抜き投げつけた。

 冷静にかつ的確に、頭を下げて刃を潜る。低い姿勢でレインはクロスに接近すると、武器を持つ手を掴みあげた。

 息切れ一つしていない。人工肌は白く滑らかで柔らかく、そして暖かい。激しい鼓動が響く中、レインの胸から鼓動代わりの、高い音が耳鳴りのように唸っていた。

 霧がゆっくりと流れていく。霞みはあらゆる色を奪い取り、白の中へと手招きをする。クロスが一度まばたきすると、霞みは流れて色は戻った。

 ナイフを抜いて胸元を狙う。

 その手をレインが掴み上げる。彼女はクロスの手を引き寄せると、強力な膝蹴りを叩きこむ。

 膝から崩れるクロスを支え、冷たい石畳の上に座らせる。レインはクロスの茶色い瞳を見つめると、咄嗟に背後へ回し蹴りを放った。

 ナイフが弾かれ通りに落ちる。

 新たなミツキがクロスの外套を身に纏い、赤くなった手を治す。新たなミツキは二発のパンチを素早く放つと、息つく間もなく足払いを入れる。

 レインは全てを捌き切り、腕を掴んで投げ飛ばす。

 新たなミツキは空中で体勢を立て直すと、利き手を固く握り締めて、レインに向かって殴り掛かった。

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