第70話

 その日、小さな墓が一つできた。

 葉の付いた枝を挿しただけの何とも粗末なものだった。

 せめてもの償いに、墓は私達で作るから休んでて、と少女に言ったが、動いてないと落ち着かないと、彼女も一緒に掘ったのだった。

 少女は摘み集めた野花を墓に置いた。青白黄色に紫と、指先よりも小さな花は全て違った色で咲く。夕陽の赤に沈む中、土にまみれた三人は揃って両手を静かに合わせた。

「アナタの世界はもっと平和で、もっと豊かで素晴らしい世界なんですよね。もし転生したら次はきっと、もっと」

 少女は墓を見つめたまま言った。

「引っ越したほうがいい。また蛮族が来るかもしれない」

「いいんです。生きていたって仕方ありませんから」

 いつか聞いたような言葉に、胸を刺された気分になった。

 ソードは少女の肩に手を置き、目線を合わせる。赤と黄色の二色から成る瞳は夕方の空のように、綺麗に澄んでいた。

「私も。同じ気持ちになった事がある。生きていたって仕方ない。自分の命だってどうでもいいって。でもこの世界には、ちゃんと助けてくれる人がいる。手を差し伸べてくれる人がいる。だから、生きることまで諦める必要はない」

 レインの姿が脳裏をよぎる。力強く差し出してくれたその手を、今でもはっきり覚えている。もしあの人が居なかったなら、今の自分は無かっただろう。

 開いたままの少女の目から、大粒の涙が溢れ出す。西日を受けて輝きながら流れる度に、ソードは指で拭い上げる。風が備えた花を散らせた時、ついに少女は泣き声を出しソードに抱き着いた。

「報酬を、用意してきます」

 太陽が沈み、月が昇りかけた頃、少女はようやく顔を離した。散々泣いた声は枯れ、目の周りは酷く赤くなっている。

「取っておいて。助けられなかったんだから」

「でも」

「それは、これからのアンタの為に、アンタ自身の人生を幸せに生きるために使ってほしい。そしてとびっきりの幸せを、弟に見せてやりなさい」

 少女は初めて、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。そして首を縦に振ると、ソード達に礼を述べた。

 ソードとミツキは荷物を纏め、水車小屋を後にする。月に照らされた動かぬ水車は、流れる水に濡れて綺麗な光を放っている。街へ戻る道すがら、ソードはおもむろに口を開いた。

「ねぇ、もし私が死んだら」

「やめて。不滅の勇者がする話じゃない」

 街道に沿い、貧民街を抜ける。そして街にたどり着くと、二人はギルドの扉を開けた。

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