第68話

 フレイルを回避し槍で突く。氷の穂先を氷が阻み、衝撃だけが手に伝う。

 ミツキは止められた槍をそのまま手放し、股の下を転がり抜ける。背中越しに頭を狙うも槍は止まり、意図に反して宙へと浮かぶ。

「氷の武器が効く訳ないだろ。バカか?」

 ぼやきながらサイクロプスは振り返る。宙に浮かぶ氷の槍を反転させると、穂先をミツキに差し向けた。

「どっちがバカだ」

 サイクロプスの背後からソードが一気に走り込み、赤い剣を両手に持って空高くへと振りかざす。

 氷の盾を咄嗟に作り出すも既に遅く、全身全霊の力を込めた一撃は氷の盾をも打ち砕き、巨体を真っ二つに引き裂いた。

「この程度の陽動に引っかかるなんて」

 ソードは二つになったサイクロプスの目を蹴り飛ばす。それは黒い体液を辺りに散々撒き散らし、最後に弾んで藪の中に消え去った。

「無事でよかった」

 へたり込む少女に手を差し伸べる。その手が血にまみれていると気づいたソードは、急いでグローブを外す。呆けた様子で少女は見上げていたが、やがてソードの差し出す手を取った。

「ありがとうございます」

「お礼は全部済んだらでいい。まだ何も解決してないんだから」

 少女の手を引き立ち上がらせる。

 彼女の身体はやけに軽くて、握ったその手はやけにか細い。それでも少女の体温はソードの手よりも高く、温かくそして心地よく感じられたのだった。

 小屋に戻り、新たなミツキは服を借りた。

 後日好きな服を好きなだけ買ってあげると約束をして、ミツキは少女のボロを纏う。流石にサイズが合っていないのか、少々きつそうにはしていたが文句ひとつ垂れる事無く、礼を言って感謝した。

「まだ時間はある。しっかり悩むと良い。もし、どうしても辛いのであれば私達に任せてくれてもいい」

 そう言って、ソードはミツキに目を向ける。

「大丈夫です。私がやります」

 少女はソードの予想に反し明瞭な口調で答える。ソードはゆっくり瞬きすると、グローブを外しながら口を開いた。

「わかった。はじめよう」

 血に汚れたグローブを洗い、少女の両手に着けさせる。二箇所のバンドを最もキツく締め上げるも、少女にとってはまだ緩かった。

 ソードとミツキは布越しに、少年の手と足を抑える。余った指の先を気にしながらも、少女はナイフを手に持った。

 鞘を掴み、柄を握る。少女はゆっくり力を込める。

 ほんの微かな音がして、鞘から刃が抜かれていく。空になった鞘をすぐ傍に静かに置くと、ナイフを両手に持ち替えた。

 小刻みに震える刃に光が当たり反射して映る光が大きくぶれる。ナイフの先を少年の胸に向け、浅い呼吸を何度も何度も繰り返す。少女が大きく深呼吸した時、少年の目が細く開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る