第67話
一つ、二つと切り砕くも、三つの礫が胸と足と肩を貫く。
ソードの血が着いた外套が、千切れて舞い上がる。
片膝を着くソード目がけてサイクロプスが跳びかかる。振り下ろされるフレイルを、避ける間もなく真正面から受け止めた。
力も重さもあるそれは、ソードを徐々に押し込んでいく。歯を食いしばり、一つだけの目を見上げた時、氷の槍が周囲に現れてソードの身体を刺し貫いた。
「不滅の勇者。お前に恨みを持つ奴は多い。生きて連れて帰れば泣いて喜ぶ連中もいるだろう。だが、まずは。勝利の報酬を戴くとしようか?」
辛うじて赤い剣を手に持って、貫かれた自分の身体を力無く見下ろす。長く冷たい柄を伝い、氷の穂先から静かに落ちる。両膝を付いた彼女の顔を掴み上げた時、小さな石が彼の頭にぶつかった。
「その人を放して」
獣人の少女だった。彼女は石を拾い上げると、サイクロプスへと投げつける。だが石は、残念ながら風に煽られ、サイクロプスから逸れていった。
「コイツはお前の客を殺しちまったんだぜ? 酷い奴だろ? 俺達が死んだら金はどうするんだ。お前の弟は? 今なら見逃してやるから引っ込んでな」
「その人は、弟を治せるかもしれない唯一の希望なの」
サイクロプスはソードの頭を掴み、刺さった槍をそのままに、引きずりながら少女に近づく。そしてすぐ目の前で立ち止まると彼女を見下ろしながら、ため息を一つ大きくついた。
「弟の事なんて諦めたらどうだ。お前が金の為に嫌々やってるってこと、全部伝わってんだぜ? 弟さえいなければ、お前一人くらい嫌なことせず生きていけるだろ。どうせ助かりはしねぇんだから、早く楽になった方が良いと思うぜ?」
少女は俯き歯を喰いしばる。両手を強く握りしめると、絞り出すようにして言った。
「弟さえ助かるのなら私はどうなったっていい。その人は。やっと見つけた希望なんだ」
「言ってることは立派だけど、自己犠牲は感心しないな」
ソードの目が開かれる。
サイクロプスがソードに目を向けた時、人影が奴の頭に跳び膝蹴りを見舞わせた。
よろめきながら巨体はソードを手放す。
外套を風になびかせながら砂を払う。ソードと同じ身長に、全く同じ顔立ちで現れたのはメイスとも違う。産まれたばかりの新たなミツキであった。
「助かった」
「早く立って。まだ敵は生きている」
解放されたソードに手を貸し槍を抜く。彼女は二本の槍を持つと、唸るサイクロプスへ一足先に向かって行った。
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