第66話

「ここだ。ここに猫の獣人がいるはずだ。頼むからあいつ等には黙っていてくれよ? 俺の尻尾を慰めてくれる貴重な場所なんだからよ」

 下種な笑いが沸き起こる。蛮族達は近いらしい。聞き耳をしっかり傍立てたままソードは音がしないよう慎重に、板の囲いの外に出る。

 壁の合間から影が動く。数は四。皆、揃いも揃って大柄で、野太く品の無い声だった。

「おい居るか? 来てやったぞ」

 囲いから出ようとする少女に、片手を上げて制止する。扉を手荒に叩く音がする中、ソードは赤い片手剣を抜き両手で構える。そして扉の脇に立った時、叩く音が止まり、おかしいなと、呟く声が漏れ聞こえた。

「いねぇのか? 今日は金貨三枚持ってきてやったぞ。早く出て来てくれよ」

 嫌な笑い声に、剣を持つ手に思わず力が入ってしまう。

 これだから蛮族は嫌いなんだ。頭の中で毒づくと、心の中で舌打ちをした。

「まったく、仕方ねぇな。入るぞ」

 言い終わらぬうちに扉が大きく開け放たれる。激しい音が響き渡り、差し込む光に影が落ちる。影の主は壁に手を掛けながら、頭を屈めて入り込んできた。

 ソードは素早く剣を振り下ろし、蛮族の首を切って落とす。残った胴から流れ出る血を外套で防ぎながら、外に向かって蹴りだした。

 男性体に牛の頭を持つ二足歩行の蛮族の、ミノタウロスが残り三体、唖然としたまま突っ立っている。ソードが剣を振って血を払った時、彼らは武器を取り、ほとんど同時に突っ込んできた。

 足を切り、腕を落として頭を潰す。振り下ろされる巨大な剣を強引に弾き上げ、心臓目がけて突きを放つ。無理矢理捩じって引き抜くと、最後の敵へ振り向きざまに切って捨てた。

 三つの死体が同時に転がる。獣人の少女に向かって出てきていいよ、と言いかけた時、氷がソードを貫いた。

 ミノタウロスより更にひと回り大柄な、単眼の巨体が姿を現す。浅黒く、厚い肌にフレイルを担ぐそれは、いくつもの氷の礫を創り上げると、ソード目がけて一斉に撃ちだした。

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