第62話

「不滅の勇者が二人いるとは思わなかった。双子か?」

「双子じゃない。私もこっちもどっちもミツキ」

 メイスのミツキが答えると、彼は一瞬言葉を詰まらせたが、またすぐに喋り出した。

「なるほど、魔法で増えたんだな。たまにいるんだよ。とんでもない魔法の使い方をする奴がな」

 マスターは火からミルクのポットを外す。蒸気と共に、二つのカップへミルクを注ぐとメイプルシュガーをかけいれた。

「新しい装備を注文したい」

 湯気の立つカップを受け取り一口すする。甘い香りが口いっぱいに広がって、少々熱いミルクが芯から身体を温めていくのが感じられる。

 一息ついたのを見計らって、マスターは羊皮紙とペンとインクを取り出した。

「ナイフを三本、短剣と片手剣に両手剣を一本ずつ。バックラー一つとハードレザーの防具、あと外套も」

 矢継ぎ早に繰り出される注文を、わかったわかったと言いながら片っ端から書き留めていく。合わせてメイスのミツキの注文も受け付けると、一人見返しだした。

「今日には発注をかけるが少しばかり数が多いな。届くのは早くても明日になるだろう」

 彼が呟いた時だった。

 ギルドの扉が静かに開く。一歩一歩、不確かで自信の無さげな足音が響く。やや間を置くと、声変わり前の少女の声でこんにちは、と声がした。

「はい。ようこそ勇者ギルドへ。お嬢ちゃん、なに用かね」

 マスターは低く野太い声を出し、今度は古風な口調の共通語で言った。彼女は少したりとも笑うことなく、突っ立ったまま彼を見上げた。

「あの、依頼を出したいんですけれど」

 声にわずかな震えが混ざる。やや上ずったその声は、辛うじて聞こえる程に小さくて弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。

「そうかそうか。立派なお客様じゃないか。さぁ、気を楽にして。どうぞこちらにお座りください。お飲み物は何がいい? おすすめは。うん、メイプルミルクかな」

 カウンターから表にまわり、剣のミツキの隣の椅子へと座らせる。そして答えも聞かずカップを出すと、温かいミルクに砂糖を注ぎ入れた。

「さて、ご用件はなにかな? 蛮族の討伐や遺跡の調査はもちろんのこと。嫌いなアイツの暗殺そして、アナタのお家の家事手伝いまで、何でもござれな勇者ギルドですよ。丁度今なら魔神の討伐だって請け負いましょう。もちろん、相応のお代は頂戴しますけどね」

 営業トークを披露して、意味ありげに剣のミツキ達に目を向ける。剣のミツキは彼にも、そして少女にも、一切目を向ける事無く温かいカップを傾けた。

「ここに不滅の勇者が来ているって聞いたんですけど」

「不滅の勇者! 世界にたった四人しかいない、あの超有名紫ランクの不滅の勇者の事ですな? いったい、どのようなご用件で不滅の勇者に会いたいと?」

 マスターの目が鋭く光る。少女は両手で包んだカップに視線を落としながら、消えてしまいそうな声で言った。

「お願いします。弟を助けてください」

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