北の方角
第61話
クロスボウを携えた哨兵が守護する関所を通過して、二人は日の出と共に街へと入る。
山の斜面を拓いた町並みは、石塁により、ひな壇状の地形になっている。道はかなりの勾配を持ち、その大半が階段だった。上に行くほど並ぶ建物は、より大型で、立派な装飾が施されている。街の最上段は推察するに王宮か、それに準ずる為政者のための施設だろう。小さく見える出入りする者は、揃いも揃って綺麗な服を纏っていた。
旅人や商人たちでごった返す中、メイスのミツキは剣のミツキの後を追う。まだ夜明け直後でありながら、行商人は早くも露天商へと変わり、早朝からの買い物客を揃いも揃って大声で呼び込んでいる。良く言えば活気あふれる街並みなのだが、混沌として無秩序に近い状態だった。
荷物や人を掻き分け進む。誰かがそっと剣のミツキの肩を叩く。振り返ってみてみれば、自分と同じ顔をしたメイスを持ったミツキであった。
「どこ行くの。ギルドはあっち」
少し分け入った路地を指す。
剣と盾の看板が、通りの篝火に照らされている。どこの街にでも見られる。世界共通の勇者ギルドのロゴだった。
人の間を押し抜けて、勇者ギルドの扉を開ける。二人と共に朝霧の混ざる冷たい風が流れ込み、吊るされていたランタンを揺らす。窓から射す朝の日差しは客の一人も居ない店内と、鱗にしっかり覆われた一対の翼膜を照らしていた。
「ようこそ。この素晴らしくクソったれな新世界へ。俺がギルドのマスターだ」
極めて自然で流暢な日本語で翼の主はそう言った。
少々気取った物言いなのは、きっとワザとやっているのだろう。自らをマスターと名のったそれは、やがて作業する手を止めて振り返ると、カウンターテーブルに手を着き聞いた。
「何か飲むか?」
二人は荷物を床に置いて腰かける。軋みを上げる木の椅子は座り心地は最悪だったが、疲労にまみれた二人にとっては些細な事だった。
「メイプルミルクはある?」
「あるよ。ちょうど昨日メイプルシュガーが届いたところだ」
マスターはカップを二つ用意する。そしてポットにミルクを注ぐと、小さな火に当て温めだした。
「不滅の勇者、よく来たな。話には聞いている。この前の魔神討伐作戦では大活躍だったそうじゃないか」
長い尾先が気まぐれに、顔をだしては嬉しそうに二人を手招く。三メートルにも届きそうなほど立派な体格と、今は折りたたんでいる翼膜も相まって、店の中は窮屈そうだ。
鱗で覆われたトカゲのような顔つきに、黄金色の瞳が宿っている。数多いる人族の中でも特徴的な、竜人族の一人であった。
「どうも」
剣のミツキは鼻を鳴らすとテーブルの上で頬杖を付いた。
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