第49話
「ほら。肩貸してあげる」
「別にいい」
「私にまで強がってどうすんの」
メイスのミツキは、剣のミツキに肩を貸す。
彼女は同じミツキであるのに、力強くたくましく、剣のミツキを支える。
「死体を、じゃなくて山を一つ増やしちゃって。あの婆さん、なにやった?」
「知らなくていい」
「すっきりした?」
耳を澄ましてようやく聞こえる小さな声で、うん、と答える。
空は紺と黒に染めあげられて、大量の星と明るい月が照っている。夜の風は冷気を纏い、砂を含んで二人を包む。半分引きずるようにして、続く足跡が長く伸ばされていく。すり鉢状の砂の底から這いだすと、足を囚われて転び、斜面を滑り落ちていった。
「見捨てられたかと思った」
仰向けに横たわる剣のミツキが、手を差しだしたメイスのミツキにそう言った。血で固まった髪の合間から、雲一つない砂漠の空を見上げる。
「本当は見捨てるつもりだった。捕まる奴が悪いんだから。でも、自分にまで見捨てられたら誰がアンタの味方になるの」
「ありがとう」
小さなため息をつき、剣のミツキの手首を掴む。弾みをつけて彼女を起こすと、また自分の首に剣のミツキの腕を回して歩き出す。
「感謝してるなら貸してあげたメイス、ちゃんと返して。あれ気に入ってたんだから」
月が形を変えたとしても、星は変わらず瞬いている。空の星は、二人の他に動く者がいない砂漠の海を優しく見守っていた。
「ヒナタって、覚えてる?」
「誰?」
即答だった。膝を付き剣のミツキを支え直すと、干しレンガの拠点に目を向けた。
「忘れてるならいい。トラウマほじくり返されたくないでしょ」
「何があったの」
「親友、だったことが自分でも信じられないくらいぶっ飛んだ子」
「生前?」
「生前」
「ならもう覚えてない。そんな昔のことまで覚えてられない」
赤い剣の先端から、最後の一滴が垂れ落ちる。
「私だって忘れてた。なのにあのクソババァ」
メイスのミツキは抱えた彼女を見やると、またすぐ正面に目を向けた。
「よく耐えた」
まだ少し先にある拠点は、海に浮かぶ島にも見える。
「今日、一日ゆっくり休んで明日の夜にでも出発しよう。水も食料もそれなりにあったから、今日はお腹いっぱい食べられる。アイツらが蘇ったりしない限りは」
剣のミツキは小さく鼻を鳴らす。そして少しだけ、ほんの少しだけ口元を緩めると、メイスのミツキに身を委ねた。
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