黒耀石

第50話

 結局、拠点を出発したのは二日たった後だった。交代で充分以上の睡眠をとり、食事と水を腹に収める。砂漠の中でありながら十数人が快適に過ごせるように設計された施設のようで、二人で使うには余るほどの資材があった。

 一日しっかり休息を取ると、剣のミツキは目に見えて元気になった。

 湿らせた布で汚れを落とし、清潔な衣服に取り換える。鈍らになったナイフと欠けた短剣には研磨剤と砥石を当てた。赤い片手剣にも同様に砥石を当てようとしたのだが刀身には傷の一つも付いてはおらず、切れ味も落ちる事無く上々だった。

 無くしたメイスは半日ほどの時間をかけて探したものの、見当たらずに諦める事となった。メイスのミツキは不満そうにしていたが、施設内を探せばすぐに同じ物が見つかった。

 この事で、無理に付き合わされた剣のミツキの機嫌は最悪の手前にまで落ち込んだ。だが同時に詳細な行路が記された地図を発見したことにより、喧嘩にまでは至らずに済んだのだった。

 大量の水と食料に着替えを纏める。

 使い物にならなくなった防具は全て取り去って、砂と乾燥から身を守る砂漠用の装備を着こむ。腰に万能ベルトを巻き付けてポーチを付ける。短剣と赤い片手剣を下げると、新しい外套を上から羽織った。

 メイスのミツキは、どこからかラクダを四頭連れてきた。

 やや色あせた鞍を乗せて、荷物を手際よく括りつけていく。ラクダ達は慣れた様子で大人しく、少々手荒に乗せても動じなかった。

 出立は静かだった。

 連結させたラクダを引いて、日没前の歪む太陽に向かって歩く。風は適度に冷たく心地よく、砂もほとんど含んでいない。服もすこぶる快適で、日差しも落ち着き和らいでいた。

 一つ二つと星が空に浮かび出し、月が太陽の後を追う。

 赤らんでいた西の空は燈から紺に、紺から黒へと移ろい変わっていく。そして月までもが沈みかけた地平の彼方に、ようやく山々の影が浮かび上がったのだった。

 南北に長く連なる山脈は標高数千メートル単位になる。頂上付近には常に雪が積もり、雲さえ突き抜けそびえ立っていた。

 幾日もかけて進むうち、砂漠の砂は岩を含むようになっていた。山脈に近づくにつれその割合は増していき、景色も変わりつつあった。

 山から吹き下ろす風が強く、特に昼間の風は暑かった。平坦だった地形も勾配を持ち始め、徐々に過酷なものとなっていく。二人一度足を止めて荷物を整理し二つに別けると、ラクダの鞍と手綱を全て取り去り自由にしてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る