第47話

 一進一退の攻防だった。

 岩の魔法と組み合わせた杖術は高速で展開されて、メイスで追うにはやや厳しい。ナイフなら動きは早く、難なく速度に着いて行けるが、石の守りには防がれる。

 突く度に踏み込む石槍を外に逸らせてメイスを振る。老婆は杖で受けると、頭上から巨大な岩を落下させた。

 雨のように降り注ぐ砂の中を転がり込んで、やむを得ず一度距離を置く。杖から石の穂先を外し、両手で回して構え直した。

 二人の遥か上空で、剣のミツキが立て直す。

 速度を失った彼女は反転、そして徐々に落下を始める。刺し貫かれた穴を塞いで、月を受けて赤く輝く剣を手に、頭から地表に向かって行く。

 老婆はメイスとナイフを相手しながら、巨岩を持ち上げ剣のミツキを迎え撃つ。

 砂の筋を引きながら空へと上がる巨岩群を見て、メイスのミツキは剣のミツキにメイスを投げてよこした。

 自由落下の最中に、激しく暴れる外套を外す。

 すぐ目前に巨岩が迫る。

 剣のミツキはメイスを受け取り、ありったけの力を込めて叩きつける。衝撃は岩全体に伝わって、細かな破片に砕け散った。同時に強い反動がメイスの柄から手に伝い、思わず手から離れて落ちる。

 剣を持つ手に力を籠める。

 更なる巨岩に狙い澄ますと、全力をもって剣を振るう。岩は綺麗に二つに割れて、ミツキの為に左右に分かれる。狭い隙間を突破した後、剣を逆手に握りなおす。

 地上では、剣に矛、斧や鎚を石で創り上げ、宙に浮かせて振り回す。ナイフしか持たぬメイスのミツキの動きは早いが、間合いも手数も老婆の方が上だった。小刻みにフェイントを交えつつ石の攻撃を捌き受け流す。互いに決定打に欠ける中、頭上から剣のミツキの影が迫った。

 老婆は刺青の蛇の目を細める。

 黒い蛇がまるで笑みを浮かべた時、砂中から岩の大蛇が姿を現す。老婆の周囲を一周し砂の嵐を作りあげる。

 岩の大蛇はメイスのミツキと老婆の間に割って入って、首をもたげる。巨大な口を大きく開けて岩の牙を見せつけると、メイスのミツキをそのままに、剣のミツキへ襲い掛かった。

 赤い剣を強く引き、顔の横で投擲の構えを取る。剣先を岩の蛇に狙いを定めて振りかぶると、口を開けて岩の牙を見せつけた。

 全身全霊の力をもってして、赤い剣を撃ち放つ。

 月と星の光を受けて、剣は赤い光に変わる。迫る岩の大蛇を貫通すると、そのまま老婆を貫いた。

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