第46話
「お前達。いや、お前と言うべきか。なんと冒涜的な魔法の持ち主よ。不老不死に飽き足らず、己の魂を分裂させるとは。生命の倫理に反すると思わんのか」
歯を噛み締めながら絞り出すような声に、ミツキは鼻で笑い飛ばす。
人格攻撃は初めてではない。追い込まれた敵が取る、常とう手段の一つであった。
「武器は何を持ってる?」
剣先から垂れ落ちる血をそのままに、メイスのミツキに尋ねる。彼女は剣のミツキを一瞥すると、老婆を見たまま口を開いた。
「メイス一本と、ナイフが一本。アンタは?」
「短剣と片手剣をひとつずつ」
太陽は間もなく砂の海に沈もうとしている。剣のミツキが血を払うと、砂地に老婆との間に赤い線を描き上げた。
「思わんのだろうな。勇者とはそういう者達の集団だ。命を奪い、カネを得る。その為であればなんだってする。全員が全員戦いを望んでおる訳では無いと言うのに!」
メイスのミツキがため息をつく。一人喚き散らす老婆の声があまりに虚しく、滑稽に、耳を傾ける者のいない砂漠に響いていた。
「作戦は?」
欠けた短剣を鞘に納め、赤い剣を片手で構える。
砂丘の上に一人立ち、長く伸びきった影を落とす老婆に目を向ける。顔半分を照らす光が老婆の顔の蛇を映し出す。エルフの顔の歪みに合わせ、蛇は蠢き身もだえていた。
「真正面からぶちのめす」
もう一人のミツキがメイスを握りなおす。
深紅の空に藍色の空が入り混じる中、太陽が最後の輝きを放ち地平に沈む。二人と一人の間を砂漠の風が駆け抜けた。
二人のミツキは老婆に向かって走り出す。
予備動作も無く飛来する巨岩を手を付き飛び越え、滑り潜り抜けて打ち砕く。上空から落下する岩を最小限の動作で躱し、降り注ぐ砂を抜け、二人は老婆に襲い掛かった。
メイスを杖で受け止めて、剣を岩の盾により防ぎ止める。岩は剣を一度防いだが、追加の剣戟には耐え切れず、ヒビが広がり砕けた。
老婆はメイスを押し退けると、杖の先に石槍を着け薙ぎ払う。
剣のミツキは後方に跳び、間をあける。
間髪入れずに迫るメイスを捌きつつ、老婆は砂中から岩を動かし突き上げる。剣のミツキを刺し貫いて、彼女と共に遥か高くまで登っていく。
老婆は剣のミツキに目もくれず、杖の先に石の斧を装着させる。
ガードするメイスの上から斧と槍を交互に振るい、追い込んでいく。
メイスのミツキはナイフを抜くと石の槍を受け止め流し、メイスで石斧を破壊した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます