第40話
寒気がするほど苦い味だった。ゴーヤを生で齧っても、ここまで酷くはならないだろう。
口元を拭い、茶碗を老婆へと差し出す。やはり薬草は確かに入っている。そのうえでさらに別の何かを入れているようだった。
「苦いのは認めるがもう少し飲んでおけ。よく効く薬だ」
老婆は床下から岩を魔法で持ち上げ椅子にする。杖を突き、腰を下ろすと何度か位置を調整し、ミツキの両目を覗きこんだ。
「さて、不滅の勇者よ。お互い率直な話しをしようじゃないか」
「話し? 尋問の間違いでしょ」
ゴブリンを部屋の隅へと下がらせて、もっと茶を飲むように勧める。眉をひそめながらも我慢して、乾いた喉を潤した。
「勇者と言う者はどうしてこうも他者を信用せんのか。お前さんを見つけたのは一週間も前のことだ。砂漠の中で干からびておったのを我が旅団が偶然見つけたのだ。この言葉すら信用できぬのであれば、こちらとしてはお手上げだ。証明する手立てなど有りはせんのだからな」
「私の装備は?」
「心配せずとも、ひとまとめにして保管してある。完全に回復した暁には、砂粒一つ余さず返してやろう。しかしお主は砂漠の中で何をしておった。砂漠を舐めておるとしか言えんような服装だったが」
「ただの事故。で、アンタは蛮族の長ってこと?」
後方に控えたゴブリン共に目を向ける。彼らは皆大人しく老婆の言うことをよく聞いて、メイスを片手にミツキの動向を伺っていた。
「いかんとも答え難いな。今でこそ、ここには蛮族しかおらぬが、人族だって訪れる。ここは砂漠に点在する中継地点だ。儂はその維持管理をしておるだけに過ぎない」
「嘘だ。正規の中継地点なら、蛮族なんかに管理させるはずが無い」
老婆がわずかに口角を上げた。
「裏ルート。公式から離れたコースでしょ」
「いかにも」
「なるほど。密輸業者も含めてしまえば人族って言った事は嘘でなくなる」
「予想以上に頭は回るようだ。密輸業者に限らず、亡命者や、どこぞの軍隊なんぞも訪れる。儂らはそうした者どもに対して物資の補充と、安らぎの場を提供することで、報酬を得て生活しておるのだ。どこへ向かうつもりだった?」
目を強く閉じ、軽いめまいを払い除ける。茶碗の中に自分の影が映り込む。細かな波が立つ水面に合わせて影も揺れていた。
「帝都。そこが私の帰る場所」
蛇の目を閉じる。口の中で帝都、と呟き繰り返す。やや間を置いて目を細く開けた老婆の瞳を、砂漠の光が照らしていた。
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