第26話
黄昏前の光が部屋に差し込む。ミツキは目を擦り、身体を起こす。
固い床の上で寝たからか、体中が痛む。大きなあくびを一つすると、両手を組んで身体を伸ばした。
酷い夢を見ていたような気がする。内容はほとんど覚えてないが、心臓は激しく脈打ち、口は乾き、鼻の奥に軽い痛みを感じる。
少しの時間をかけて頭が覚醒しきるのを待つ。改めて大きなあくびをすると、赤い果実を手に取った。
ふと目の端に、よく見慣れた物が映りこむ。
昨晩、部屋に来た時は気づかなかったが、それは剣のようだった。果実を片手の平の上で転がしながら、手を伸ばし、指に引っ掛け手繰り寄せる。剣ならば遺跡に来てから沢山見て来たが、いずれも古く風化して、一度でも振るおうものなら折れてしまいそうだった。
刃の欠けた短剣と、ナイフを一本づつしか持っていない今、武器が少なく、心もとなく感じていた。
傷の無い果実を脇に置く。
鞘に目立つ装飾は無く、汚れも全く付いていない。使われた形跡の無い鞘を握り、親指を鍔に押し当てる。軽い力を指に込めると、鍔を丁寧に押し込んだ。
鞘と鍔に、わずかな隙間が生まれる。
壊れ物を扱うように柄を持つと、刃を鞘に擦らせながら抜き放った。
ミツキは思わず目を見開いた。刀身は赤く曇った色をしており、傷の一つも着いていない。太陽の光を受けて赤みは一層強くなり、薄暗い部屋の中を深紅の輝きで染めあげていた。
大きさからして片手剣だが、見た目以上に重量がある。振りが遅くなる一方で、破壊力は高い。柄は充分以上に長くあり、両手で握ることもできそうだ。
ミツキは片手で剣を構えると、仮想の敵へと二度斬りかかる。両手に持ち替え突きを放ち、そのまま派生し切り払う。
以前に一度、青く輝くオリハルコンの剣を借りたことがある。金属にしては極めて軽く、どれほど雑に扱おうとも刃が欠けることは無い。大層立派で実用的な装飾が施され、世界に一本しか存在しない、業物中の業物だった。持ち主いわく、大切な人の形見だそうで、たった数分の後に力づくで取り返されてしまった。
見つけた剣は勝るとも劣らぬ逸品だ。赤き刃を持つ剣を、逆手に持ち替え鞘に納める。
期待以上のお宝に、心弾ませ背に背負う。位置を何度も調整したがどうも馴染まず、やむなく腰に装備した。
窓の外に目を向ける。
今日の空は、よく澄んでおり出発するには丁度良い。
砂漠の向こうに隠れかけた太陽の光を浴びながら、身支度を整えた。
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