第27話

 崩れ落ちた城門を抜け、西に向かって歩き出す。

 今日の砂漠はすこぶる機嫌が良いらしい。風は穏やかで砂塵は無く、空気は綺麗に澄んでいる。月の光は明瞭に行く手を照らし、星々は瞬き輝いていた。

 砂丘の峰へ、足を滑らせながら手を付き登る。頂上にまで至った時、射手座が輝く方角から、流れ星が一つ、二つと零れ落ちた。

 赤い果実を食べつつ砂丘の峰に沿い歩く。風は穏やかでも砂漠故に、凍てつく寒さは健在だ。外套を固く閉ざして砂と風から身を守る。手を必要最低限だけ外に出して、果実を口元へと運ぶ。口いっぱいに水気が広がり甘さで満たすも、いい加減に飽きていた。

 フードの下から夜の空へと目を向ける。流星は止め処なく煌き続け、一瞬限りの命を燃やす。わずか一秒にも満たぬ輝きを放ち、大地に至るその前に、燃え尽き塵となり消える。

 誰かが空に零したミルクの道は月とは別に、薄い影を地表に落とす。射手座の矢じりが示す先には銀河の中心があると聞く。太陽と月の二つの天体を除けば、この時期に見られる最も明るい方角だ。

 狩猟の女神のアルテミスから、狩りを学んだケイローンは不老不死であったらしい。弟子のアキレウスがうっかり放った毒矢に当たり、無限の苦痛に苛まれた。苦痛から逃れるために不老不死の力を返し、星になることで、死と安らぎと真の不滅を手に入れた。それが射手座の伝承だ。

 果実の残った皮を投げ捨てる。花弁のように揺れながら、深紅の皮が白い砂地に落ちた。やがて風が吹き付けて、果実の皮は月と星が照らす夜空に舞い上がる。

 少し先の砂地の上を小さなトカゲが這っている。摘むようにナイフを抜くと、狙いを定めて投げつけた。

 刃が砂に埋まる音がして、のたうち回る尾が見える。ミツキは素手で抑え込み、トカゲからナイフを引き抜く。

 赤く黒い血液が筋を描いて零れ出す。貴重な水分を一滴たりとも逃さぬように、暴れるトカゲに口を付ける。

 まったくもって嫌な味だった。他に口にできるなら絶対避けたい代物だ。恐る恐るイモムシを食べるライオンとだって、今なら通じ合えるだろう。

 ほんの手の平程の生物はやがて動かなくなり、ミツキの為に今死んだ。

 せめて調理ができれば良かった。残念ながら道具が無い。

 生のまま、瞬く内に食べ終えると袖で口を拭いとる。口から小さな骨を出すと、まだ低い月に背を向けて峰に沿って歩き出した。

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