第12話
見上げる程の高さがある砂丘を登る。乾いた砂は滑りやすく、普通の山より登りにくい。強い風も相まって何度も転倒しそうになった。澄んでいた空気は砂塵を含み、薄れ、ぼやけて見通しが悪い。自分が今まで残してきた足跡は早くも砂に隠されて、わずかに数歩のみ続く。
峰の頂から顔を出す。見たような小山がどこまでも続き、常に形を変えている。海原にも似た光景で、月光のもたらす光と影が、白と黒でわかれていた。
乾きと、寒さを凌ごうと砂の上に座り込む。収穫した赤い果実を取り出して、ナイフを突き立て皮をむく。厚い皮を投げ捨てて、ひと思いにかぶりつく。
陽が沈み、一層気温は下がり続け、風を遮るものも無い。体感温度は零度だが、深夜にかけて更に下がるとみていいだろう。身体は小刻みに震え続け、エネルギーと熱を求めている。
一瞬、砂塵が和らいだ。
開けた視界の遥か先に、砂丘とは異なる物が見えた。台地にしては直線的で、人工物のようにも見える。帝都、もしくは旧都かと問われれば、いずれにも共通する尖塔がない。ミツキが瞬きをした時、ひときわ強く風が吹き砂埃が視界を覆い隠した。
影の台地は丁度目指す先、西の方角にある。今晩中、進み続ければ明け方頃には辿り着くだろう。ミツキは果汁の一滴までなめとると、荷物を持って立ち上がる。
砂丘の峰に沿い進む。
大きな耳をした猫がうろつき、驚いた蛇が地中に潜る。天蓋を黒く覆う帳の表面に星が張り付き瞬き輝く。ミツキはひたすら足元に視線を落とし、西へと向かう。
適度に休憩をはさみつつ歩き続け、数時間あまり。ついに東の空が明らみ始める。その頃にはミツキが予測した通り、風邪と砂に風化した砦の前に立っていた。
崩れた砦の隙間から、中へと踏み入れる。
砂が厚く積もり、都市本来の姿は分からない。ただの軍事要塞では無さそうだ。帝都とは比較できぬほど小ぶりだが、ちょっとした国の首都と変わらぬ程度の規模はある。民家のような建物も多く残るが、いずれも古く、半分近く砂に埋もれている。
熱を含んだ風が砂と共に駆け抜ける。
東の空を見てみれば、太陽が顔を出しつつある。赤い日差しを受けて、ミツキは休める場所を探す事にした。
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