第10話
固まった砂の上にあおむけになり、胸を激しく上下させる。砂漠の熱もさることながら、運動不足が身に染みる。
レインさんなら笑ってよく頑張ったと言ってくれるだろうが、こんな姿は見せられない。
ミツキは帝都へ戻った時にやる事リストの二つ目に、お師匠との組み手とメモをする。やる事リストの一つ目は言うまでも無く、綺麗な水での入浴だった。
ギルドで受ける依頼には、数日間も入浴できない場合もある。快適とは言い難い防具を身に着け動き回る上、極端に暑い地域であったり、極寒の場にさえも赴く。さらに運が悪ければ、相手の返り血を浴びる場合や、最悪自分の血を被るような時もある。シャワーを浴びられなかったとて命を落とすことは無いが、衛生面ではもちろんのこと、心安らぐ存在としてシャワーは重要だったりする。
剣を置き、防具を外し、あらゆるものを流し去る。そんな時間をいつも楽しみにしていた。
赤く染まった大地に手を付き、彼女はようやく立ち上がる。
サボテンの針に貫かれ、動かぬ翼膜を懸命に動かす。上下逆さに磔られたワイバーンがまだ勝てるとでも思っているのか、噛みつかんばかりに威嚇した。
短剣を収め、ナイフを拾う。死してなお動き続ける長い尾を、ブーツと片手で押さえつける。何度もナイフを突き立てると、生きの良い、翼竜の尾を二つ切り取った。
蛇やワニが地域によって食されるなら、ワイバーンだって食べられる。ミツキ自身そんな話を聞いた事など一度も無いが、貴重なタンパク源であることには違いない。
試しに軽くかじってみる。どんな肉でも当てはまるように、生食で美味しいと思えるはずが無い。ましてや味付けの一つもして無いものだから、当然と言えば当然だった。
太陽は紅く地平に沈み、歪んで二つに分裂している。どちらも太陽で有りながら、一つは砂漠がもたらす幻影だ。
熱風の中に冷たい夜風が混ざりこむ。
穴だらけにされたバックラーを外して手に持ち変える。防具としては機能しないが、受け皿としてはまだ有用だ。果実を一つ腹に収めて、捨てた果実をバックラーに積み重ねた。
長い尾を肩にかける。サボテンに群がるハゲワシ達の前を横切り、フードを下ろすと夕陽を目指して歩き始めた。
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