第8話
赤い果実を取れる分だけ切り取って、飽きる程食べつくす。果実はまだまだ沢山なっている。ミツキはバックラーを受け皿にして、山のように収穫をする。
不老不死であったとしても人並みの苦痛は感じる。むしろ生半可な事では死なない分だけ、人一倍激しい苦痛が待っているのかもしれない。一度だけ死を経験をしたが、飢え死になんてしていない。比較的幸福な死に方だったと呼ぶべきなのか、即死した分、苦痛はあまり感じなかった。
いくらか元気になった所だが、すぐに出発はしない。理由は簡単、太陽だ。頭の上で元気に輝き続ける限り、激しく体力を使ってしまう。涼しくなる夕方まで待った後、夜に移動するのが良いだろう。
食べ残った皮を捨てた。
ハゲワシたちは相も変わらず離れた位置で、羽を繕い待っている。ミツキの様子を伺いながら、我関せずと言わんばかりだ。絶対に生きて戻ってやると決心し、生暖かな果実へと、かじりつく。
何時間か経った頃、鳥たちが騒々しく鳴き喚きだす。無駄な体力は使いたくないが、そうも言っていられないらしい。
北の空、遥か彼方に三つの黒い点が飛んでいる。ミツキはよく目を凝らし見定めると、果実を全て大地に転がして、バックラーを本来あるべき場所へと戻す。
外套のフードを上げて立ち上がる。剣の鞘と柄を掴み、動向を伺う。明らかに三つの影は高度を下げながら近づいている。
隠れる場所など、ここにない。どれほど目が悪くとも荒れ地に一人でいる以上、もう見つかっているはずだ。
狡猾かつ臆病な、黒く大きな小鳥共が血の香りを察知し舞い上がる。
どちらが勝とうが負けようが、奴らにとっては関係ない。自分たちの無事は保証され、運が良ければ食事に有りつけるという訳だ。
二足のイモリかヤモリに翼が生えて、ワニのように発達した顎を持つ。竜にも似てるが爬虫類に分類され、系統からして全く異なる。地域によっても呼び名は違うが一般に、ワイバーンと呼ばれる野生動物の類であった。
小さいものでも一メートルから、大きいものなら五メートルにも成長する。肉食で凶暴な種も数多く、勇者ギルドにおいても頻繁に討伐依頼の舞い込む。黄色、もしくは緑ランク以上とされて、大した強さではない。だがそれも攻撃魔法が使えればの話であって、ミツキにとってしてみれば一人で戦いたくない相手だった。
悠々と、しかし走るより早く、翼膜を広げて滑空する。三匹のワイバーンはミツキを囲むように降り立つと、低い唸り声を上げた。
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